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その後
男と暮らし始めて、誰かとすごす事が存外楽しいことに初めて気がついた。
それで、ああ、今まで家族と同じ屋敷にはいたけれど、一緒に暮らしているとはいえなかったということに思い至った。
まともに、誰かと視線が合ったり、会話をかわしたり、それから、自分の近くで人の気配がすることがこんなに落ち着くなんて知らなかった。
ただ、それが人間ではなく使い魔だったというだけだ。
もっとも、あきらかにおれより強いこの男を使役しているという感覚は全くない。
名前も知らない同居人とただ生活しているというだけだった。
そもそも、魔力量がたいしたことのないおれは彼に対してまともに魔力供給できていないだろう。
それを一度わびた事はあるが、気にしていないと返されただけだった。
だから、という訳ではないが召喚で呼び出された生き物が普通に食事をすると知って、彼のために食事を作るようになった。
元々家に居場所のなかったおれは、メイドの手伝いのようなことをしていた。
それに、まともな仕送りを期待するだけ無駄なため基本的には自分のことは自分でしていた。
粗末なスープとパンが並ぶだけの食卓だが、男は文句もいわず向かいの席で食事をしている。
会話はあまり無かった。
時折、強い視線を感じ、男を見ると、じいっとこちらを見ている。
嫌な視線ではなかった。
なれなくはあるが、彼いわくただ単に気にいっているだけということは分かっていたし、そもそも、誰かと視線が合う食事自体、経験が無かった。
それでも、二人の空間は居心地がよかった。
「あの……。」
「なんだ?」
声をかけた時に返事が来ることが嬉しかった。
「名前を――」
まず、貴方を知るところから、自分を知ってもらうところから始めようと思った。
了
リク内容:固定CP、人外(人型)攻め、平凡受け、Token of the covenantと同じ世界観、ハピエン
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