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プロローグ すべてを終わらせに行こう
「すべてを終わらせよう」
張りつめた視線が真っ直ぐに私に落ちていた。長い年月を共にしてきた今日という日まで、そんな顔をした彼を私は一度だって見たことがなかった。とても強い視線だ。どうやっても顔をそむけることができない。
そんな私の視界に大きな手が映っている。
目の前に差し伸べられた彼の大きな手が迷うことそのものを拒んでいた。
この手をとれという声なき声が聞こえてくる。
私を見つめる彼を見つめ返す。
薄茶色の瞳の中には言葉を失ったままの私がいる。
なぜという思いが渦巻いた。
どうして今なのだろうと、そう思った。
知っている顔なのに、まるで知らない人みたいな彼がいる。
目の前にいるのはたしかに私の好きな人であるというのに、だ。
なにも答えず、差し伸べられた手もとらないで、ただひたすら見つめ返す私に、彼は死刑を宣告する裁判官のように感情の読み取れない声で静かに告げた。
「すべてを終わらせに行こう」と、そうはっきりと――
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