第一話:死神教授と確定申告

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第一話:死神教授と確定申告

 「C,H・OCK・E,R・チョーカー!」「C,H・OCK・E,R・チョーカー!」  諸君。年が明けて三ヶ月も経たないのに、もう年末の某国営放送での歌番組に内定しているとかしないとか、とにかく大人気な吾輩、死神教授である。もういっそのことフランシウムのボールを巨大ダムに落として地球まるごと吹っ飛ばしてやろうかと思っている今日この頃だ。  あれから忌々しいことにセカンドシングルも売れに売れ、今もこうしてライブでオタ芸という奴か?曲の合間に野太い声の合いの手を喰らっているところだ。本来ならば全員拉致して戦闘員に改造してやりたいところだが、隣でカンナ様がノリノリで踊られている以上、吾輩には何も出来る事はない。  それにしても、ここまで露出が激しいと、そろそろ不味いことになるのでは、とカンナ様に恐る恐る進言した事があるのだが、不敵な笑みで返された。「我のプロフィールを検索してみよ。」  完璧であった。あたかも実在するかのようなジャリタレを装いつつ、肝心な部分は児童保護を名目に鉄壁のブロックを掛けてある。  しかし困るのは吾輩の方である。もう、ここまで顔が売れてしまうと隠密行動など出来ようもない。ならばと、棘付き肩パットにサングラスでイメージチェンジしてしまえと頑張ってはみたものの、却ってお茶目だと言われて人気が更に出てしまう始末。  解せぬ。  そんな訳で数年分の活動資金を吾輩の個人名義であっという間に稼いでしまったので、吾輩はいま確定申告の時期を迎えておる。  そんなもの踏み倒せば良い?馬鹿者め!我々を凡百のテロリスト共と一緒にするでない。ルールを守ってこその世界政府なのだ。それに、征服が完了すれば自ずとそのうち我々の物になるカネではないか。とは言え、初めての事とて勝手が解らぬ。なので、部下達を連れて申告の相談窓口に来ている我々なのだが…。  何故だろう。周囲がドン引きしているのを感じるのだが。 ーーーーーーーーーーーーーーー  『こ、怖いよう。』必死に自分を押さえつけながら、窓口の担当者は引き攣った笑顔を浮かべ、一体何の因果で自分にこの様な災厄が降り掛かって来たのかと、胸の中で自問自答するのであった。  地方公務員人生一筋。ここまで世間に顔向け出来ない様な事など何一つ無く、目立たないが堅実そのものの人生を送って来たつもりであったのに。ただうっかりと窓口業務のトップに上り詰めてしまったが故に、この様な目に遭わねばならぬとは…。と言うか、まさか噂の犯罪組織幹部が、自分の居住するエリアに住民票を置いているとは夢にも思わなかった。警察は一体何をやってるんだ。ヒーローはどこに居る!?  助けを求めて視線を彷徨わせるが、元より窓口の部下たちは全員視線を逸らすばかりである。このまま、胃に穴が開いて倒れたら労災は降りるのだろうか…担当課長は悲しく自問自答を繰り返すのだった。
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