傘を持っているけど相合傘をして帰らないだろうか?

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「せ、せせ、せ、せんぱ、い!」 「……ん?」  学校の靴箱の所で雨宿りをしていると、顔を真っ赤にした一人の少女が声をかけてきたので振り向いてみる。  まるで慌てるようにしながら持っているビニール傘を握りしめるようにしながら自分の前に立っており、顔面が真っ赤になっていて、かわいいだなんて思ってしまった自分がもどかしい。 「えっと……雨宮さん?」 「は、はい!雨宮律子です笠原先輩!」 「で、その雨宮律子さんが僕に何か用事?」 「ふぇ、あ、え、そ、その、せ、せんぱいは、か、傘、な、ないんですか……」 「かさ……」  ここまでの事を考えながら笠原雄二は推理してみる。  自分は今、学校の靴箱前で雨宿りをしていた。  つまり、自分には傘がないだろうと目の前の少女、律子は考えたのであろう。  律子と雄二は部活で一緒になっている仲であり、別に一段と仲が良いと言うわけではないのだが、前々から律子は雄二にこのように声をかける事が多い。  それは何故なのかあえて深く考えていなかったのだが、傘を握りしめているという事を考えてつい自分の悪い癖なのか、元々推理小説が大好きだったため変な推理のような事をしてしまう。  彼女は、雄二が傘を持っていなかったから、相合傘をしてしまおうと考えたのではないだろうか?  しかし、雄二は顔を申し訳なさそうにしながら答えを言う。 「かさ……あるよ」 「そ、そうなんですね!傘がなければ私と…………えええええッ!」 「あるよ、傘」 「……」 「……」  雄二は申し訳なさそうな顔をしており、律子はその言葉を聞いた瞬間動きを止め、呆然と見つめている姿がある。  確かに雨宿りと言うものをしていたのだが、別に傘は持っていないとは言っていない。  元々雄二は雨と言うものが好きで、雨の中に見える周りの景色が好きだったため、校門やグランドに見える別の景色を見ていただけ。  晴れていた世界とは違い、雨が降っている世界で、また違ったものが見える為、楽しくのんびりとみていただけ。  数分後には帰ろうとしていたのだが、どうやら律子は傘を持っていないと勘違いをしたらしく、お互い気まずくなる。  しばらく沈黙が続いてしまった雄二は、持っていた折りたたみの傘を鞄から取り出しそれを広げると、少し恥ずかしそうな顔をしながら律子に声をかける。 「えっと、雨宮さん」 「は、はい!」 「……僕の傘でもし大丈夫なら、入らない?」  君は傘を持っているけれど――と小さな声で答える雄二に対し、少し涙目になっていた彼女の顔は綺麗な笑顔になる。  そして再度その意味を理解した律子はすぐに頷き、雄二が広げた傘に入る。  自分の傘を後ろに隠すようにしながら。  何度も見たことのある景色に、綺麗な笑顔をした少女が現れた事により、雄二の世界は少し鮮やかになるのだった。  二人の距離が少しずつ、縮まっていく。
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