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「ねえ…そもそも
なんでアンタがここにおるん?」
ゆりは人気のない廊下の端っこで、真冬と対峙した。
人気がないのをいいことに、真冬はゆりをふわっと腕に閉じ込める。
「もう、触らん!」
バシッとはたかれて、真冬はくすぐったそうに笑う。
「ああ…えーとね
俺、一応、免許持ってるから…」
「は?」
「教員免許」
「…」
ゆりは絶句。
ーーきょ…教員???
「えっと…」
「今日から『アンタ』じゃなくて『真冬先生』、と呼べ」
「…っ」
「…ゆりともっと一緒にいたいからさ
10月31日までに…もっと粘っこく、親睦を深めていこうかなと」
フワッと微笑まれて、ゆりはーー頬が赤くなるのを感じていたーー
聞くと、真冬は、大学時代に教員免許を取得していて、採用試験にも受かったけど教師にはならなかったとか。
なんでも、『俺みたいのはならないほうがいいんだ。教師ってガラじゃない』と思ったとか言う。
ゆりが妙に納得すると、真冬は苦笑いをした。
「…教師だったら、こんな風にゆりに触れないしな」
「…きっとアンタならヘンタイ教師になったやろーね
新聞沙汰の!」
珍しくゆりが素直に笑うので、真冬は一瞬、見とれたーー
ゆりは気づかない。
「ゆり…好きなの…?」
「は?んなわけあるか」
「…あいつのこと、好きなの?」
真冬が無表情で、ゆりに聞く。
「あいつ?」
「さっき、ゆりのそばにいた男」
「ああ…」
ーー拓斗くんのことか…
思い返せば、穏やかに、いつもゆりを見守ってくれていた存在、それが拓斗くん。
わからん問題とか、休み時間に親切に教えてくれたし…
補習の後、暗い中、ゆりが、傘が無くて困って雨宿りしてたら、一緒に帰ろうって言って送ってくれたりしたっけ。
…家、反対方向なの、後から知った時は平謝りしたんやけど、やっぱり笑って…くれてたなあ。
そんなさりげない親切を、拓斗くんからは、たくさん貰っとる気がするな…
いい人だよね…
「好きとか…そんなことはない…けど」
ゆりの顔をジッと見つめていた真冬が、ひどく冷たい顔でにっこり笑う。
「…もういいや。
…聞くんじゃなかった。もう今、あいつとのこと、思い出さないで」
顔ではにっこり笑う真冬。ゆりは、真冬が内面では全く笑ってないことに気づいた。
「とりあえず、あいつはマークした…」
ボソッと呟く真冬。
「へっ?」
不穏な言葉が聞こえて、聞き返すゆり。
「…ゆり、帰ろうか」
「…うん…なんか疲れたし…帰る…」
珍しく素直なゆりに、真冬は一瞬驚いた顔をしてーーフワッと微笑んだ。
「手…」
ゆりに手を差し出す、真冬。
「手とか繋がんわ!」
赤くなりつつゆりが睨むと、真冬はクスっと笑った。
「…だよね
早く、二人で一緒の家に帰れるといいな」
歩きながらつぶやいた真冬。
胸がーー
ゆりの胸が小さく跳ねた。ゆりはそれを真冬には内緒にした。
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