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車を停めて、しばらく歩くとーークスの樹のところにいけた。
いつもは人を近づけないように柵やロープがしてあるが、この日は何故か、柵が一か所開けてあった。
「…ホントにここだ…」
真冬はゆりの手を引いてーー斜面を降りていく。
大きな木の下にはシダ植物が茂り、午後の優しい木漏れ日が幾筋もの光の線を作っている。
ーー神秘的な、場所…
「素敵やねぇ…
ここが、何なん?アンタにとって、特別なん?」
「ああ…」
真冬は、まるで懐かしいかのような顔で目を細めてクスの樹を見上げる。
「やっと、来られた…キレイだな…
もの凄い、力を感じる…」
真冬のキレイな瞳ーー光を反射して煌めくその瞳に、ゆりは思わず見惚れた。
「…よかったね、来られて」
真冬の目線が上からゆっくり、ゆりに落ちてきた。
時間がとてもゆっくり流れているような感覚ーー
「ゆり…」
「ふふ、アンタも、そんな純粋な顔するんやね」
真冬は花のつぼみが綻ぶように笑った。
ゆりも、笑ったーー
「樹齢1000年、かあ…1000年前から、
アンタはここに立ってーーおるんやね
何人の人たちを見てーーいくつの時代を見てきたんやろう…
立派な、樹やね…
うん!アンタは、美しいわ
これからも、時代を見続けて…
ずっとずっと、元気でおりーよ」
ゆりが、クスの樹を見上げて話しかける。
一陣の風が吹き、葉っぱがまるで応えるようにざわざわと動く。
森みたいだーー。
真冬は何も言わずに、微笑んでクスの樹を見上げた。
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