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「なんだろうな…
あったかい、のかな」
「ん?」
ゆりを見つめる真冬の目はとても優しい。
「うん。
この、特別な場所にーーゆりと来られて、よかったなって…」
ーー特別な、場所…
「あ…」
ーーデジャヴ…
一瞬、ゆりの脳裏にフワッとした記憶が過ぎた気がした。
とてつもなく懐かしい、ぼやっとして思い出せないのがもどかしい、大切な場面。
クスの樹と、真冬の微笑みとーー午後の木漏れ日。森の匂い。
鳥の声。風のそよぎ。
ーー見たことが、ある記憶。
どうしても、思い出せないのに、甘い、感じのする記憶。
ーー2人で、いた?
頭の中ーー光に今にも消えてしまいそうな記憶を、手繰り寄せることも出来ず、あっという間に意識は浮上する。
ーーなんだったんだろう。
前に家族でここに来た時は、こんな思い、しなかったのに…
「ゆり?」
「っ!」
今の消えてしまった記憶の影が、真冬の顔と重なり、動揺したゆりは、
木の根っこに足を引っかけて上体のバランスを崩す。
ーーわっ…こける…!
ゆりは目をつぶった。
「ゆり!」
ガシッと抱きしめる、たくましい腕。
そっと目を開けると、真冬がゆりを抱きしめるように支えてくれていた。
「あっ…」
心配そうにのぞき込む、優しい艶やかな瞳ーー
今までで一番の密着度ーー真冬の男性らしい筋肉質な肌
シャツ越しに感じて
その近さに、ボッとゆりの頭に血が上る。
「はっ…!!早く離してっちゃ…!!」
「……あっ、そ」
ゆりが余裕もなく、ドンと真冬の胸を押すと、すぐ不機嫌そうな真冬の声がして、あっけなくその腕は離れる。
「あ…!」
あっと言う間に、きちんと立てていなかったゆりは再びバランスを崩す。
ーーこける…っ!
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