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車が走り出す。真冬の車は大きくて、エンジン音がいい。ゆりは車に詳しくはないが、これは完全に高級車の部類。テレビで見たことがある。
ゆりは、ドアを閉める時の『ウズッ』とでもいうべき低い音が好きだ。
内装も美しくて、シートの肌触りもよく、居心地は最高にいい。
ゆりは、自分は乗り物が好きなのかもしれん、と思った。
気に入っとるなんて・・・悔しいから絶対言わんけどね。
「……」
ゆりは腕組みをして運転中の真冬を睨むように横目でジッと見る。
しばらくカッコつけてポーカーフェイスで運転していた真冬。
ちらりと視線を流したときにじっと睨むゆりの瞳とぶつかってーー
くすぐったそうにプッと笑った。
「…睨む顔も…可愛いもんだな
ふふ…最高だ。
ゆりは今、俺のことしか考えてないね
…それでいい」
「…アンタ、ふざけとん?」
すかさずゆりがため息交じりに言う。
「ふざけとーから、こんな田舎の地味なフツーの小娘に構うんやろ
アンタなら女は選び放題!
都会にはキラッキラしたきれーな『JK』がいっぱいおるやろーに」
「…それは。
俺は
褒められてるのかな?ゆり。
この世に
…『ゆり』は一人だ。
代わりはいない。
ついでに言っとくが、
・・・俺は気の強い子は嫌いじゃないよ…
気の強かった子がーーこの俺の手に落ちる時の、陥落するときのあの瞬間がーーたまらなく好きでね」
「はあっ…?アンタ、ヘンタイやろ!?
そうやって今まで何人餌食にしてきたんよ!?
言っとくけど…私がアンタに『落ちる』なんか絶対ないわ!」
「ふふ・・・まあそのうち…ね?
楽しみにしとけ。
・・・ドライブを続けよう」
真冬は優しく目を細めてゆりに微笑み掛けた。
「…私は友達と帰りに寄り道したかったし!」
ゆりは不服をあらわに、腕を組んで真冬を睨む。
都会から田舎町に新しく進出して来たという話題のケーキ屋さんに行きたかったのだ。
「…俺と一緒に『寄り道』すればいいだろ。その後で家まで送る」
「なんでよ!」
「ゆりは俺の…婚約者、だろ」
ゆりは一瞬真剣な目になった真冬からプイっと目をそらすと、車窓から外の景色を見つめた。
車は市街地を抜け、郊外を走る。遠くに山々が見えてきた。
「……………違うし」
「…おまえの親が契約したんだから、もうおまえは俺のものだろ」
真冬の声が、とてもとても、低く冷たくなった。
「…まだ、違うし…!あれは…!!!」
「ハッ?…10月31日に1億だぞ?・・・半年後だ。…無理だろ?」
「あんな…騙すみたいなことして…!」
キキーっと急にブレーキをかけて、真冬が車を路肩に寄せた。
「…っ!」
ガクンとゆりのカラダが揺れた。
真冬は荒々しく運転席のシートベルトを外すと、右手でハンドルに肘をつき、助手席のゆりを向いて睨む。
「人が優しく言っていれば生意気に…
いいか?俺が笑っているうちが花だぞ。
契約違反でもするつもりか?
おまえを1億のカタに、売ろうが、気が済むまでまわして棄てようが俺の勝手なんだ…!
立場をわきまえろ。
この俺がわざわざ婚約してやるって言ってんのにだな」
「何なん、その俺様気質!
アンタは王子か?それともどっかの魔王なんか?
そういうとこがホンットに嫌い!
アンタなんかの婚約者になるぐらいならねっ…!」
2人は睨みあう。
ダンッ!
真冬がダッシュボードを拳で殴る。
その目ーー
ゆりはビクッと震えた。
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