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「…言ってみろよ
俺の婚約者になるぐらいなら…なんだ?」
真冬のこめかみには青筋が立ち、顔は微笑んでいるのに目がまったく笑っていない。圧倒的な迫力でーーひどく低い声がーーゆりのカラダも心も冷やしていく。
「…その『契約』が有効なんか、まだわからんやん。
裁判所?か…わからんけど…調べてもらうし…!」
「で?」
「万一…契約が有効で、両親が期日に間に合わんのやったら、私が…働いて…」
ゆりが声が震えないように、喉の奥から言葉を絞り出せばーー
バンッ!!
「…っ!」
真冬の右手が、ゆり越しに助手席の窓を割れたんじゃないかってほど叩いた。
ゆりの鼓膜がビリビリと振動した。
ガラス窓に手を着き、ゆりのすぐ目の前に迫る真冬の目はーー怒っていて、殺人的に怖くて。鳥肌が立ち全身が縮み上がるほど鋭くてーー
胸がギュッと引き絞られる…
「ああ?
お前…1億でカラダを売って、一生風俗にでも落ちるつもりか?」
真冬の声が、ひどく低い。
「『1億』ってなあ、簡単には稼げないぞ。
大人の社会を舐めるな。
・・・仮に不特定多数の男に抱かれても…俺とは婚約しない?
…それほどまでに、俺がイヤか」
低く掠れた、声。
ゆりは震えた。
「なっ…なんで私なん?女の子はたくさんいるのに…なんで…っ
・・・そんな、お金の力や暴力で人に言うことを聞かそうとする人は私は嫌いなんよ!」
胸が一杯になったゆりは潤んだ目でーーそれでもまっすぐ真冬を見つめた。
沈黙が、重く車内に満ちる。
「…『嫌い』、か…」
真冬が小さく呟いた。
ゆりは下唇を噛む。
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