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ゆりがボケーっと見とれていると、真冬がゆっくりゆりを向く。
目が合うと、花が咲くように微笑んだ。
ドキン…
いややわ…若いのに動悸がするわ…
ゆりは胸のドキドキを自覚する。
これは動悸の、はず。
こいつの本性は知ってる。
高校生を借金のカタに望むような、人でなし男だ。
まさか…好きになるなんてことはないわ。
え?
好、きーー?まさか。
「ゆり」
真冬がカーテンを閉める。
ゆりに向かって長い足で大股で歩いてくる。勢いがこわくて思わず目をつぶると、後ろで鍵を掛ける音がした。
「…!」
面談室は密室になった。
「ゆり」
なぜか、ゆりは動けない。
真冬と車の中で2人きりになったことなんか、何回でもある。
バイクで怖くてしがみついたことも。
抱きつかれそうになったことも、抱き上げられたことも。
全て、何ともなかった筈なのに
真後ろからビンビン伝わる真冬の気配。
細胞の一つ一つが敏感になってーー全身で真冬の気配をキャッチしている。
真冬の吐息が髪にかかるのさえわかった。
「…」
高まる緊張に、ゆりの息が知らず、あがる。
ドキン…ドキン…
は?私…これじゃ…まるで…
その時ーー
コツン★
「いったっ!」
頭のてっぺんに、げんこつ。
後ろから、クスクス笑う真冬。
ゆりはその場にしゃがみ込む。
「痛いっちゃ…もう…虐待っ!!暴力教師!!」
さして痛くもなかったけど、涙目のゆり。
雰囲気も色気もあったもんじゃない。
真冬もゆりの前にまわって、しゃがんだ。
「あんなことを言うからだ」
ち…近い…
目線が合うと、真冬は笑った。
「ゆり。
仮に何人女を紹介されようが」
言うと、真冬はゆりの頬に両手を添える。
あ…
ドキン…ドキン…
また、ゆりの鼓動が速くなる。
「ゆりは逃がさない」
ゆりは、蛇に睨まれた蛙みたいに、動けなくなった。
こいつーー
この男…
九条…ま、ふゆ…
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