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「ゆり、すまん!」
時は遡って
ゆりが真冬に会う1ヶ月前の、ある日曜日の朝のこと。
たっぷり眠って、部屋着で自宅の1階に降りたゆりに、父親が手を合わせる。
「おとーさん…昨日も遅かったんやね、おはよう!」
ゆりは目をこすりながら冷蔵庫からミネラルウォーターを出す。
「お父さん…!どうするんかね…」
母親が困ったように父親を見つめる。
ゴクンと水を飲んでーーゆりは両親を見比べた。
「ん…?何かあったん?」
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「は?はあああああ?」
ゆりは衝撃を受けた。
あんぐり開いた口がふさがらなかった。
父から聞くのは、
飲み屋街で意気投合した、感じのいい青年の話で。
昨夜父がふらりと初めて入った店が、ぼったくり店で、困っていたところ助けてくれたのが、その青年。
次の店に行く途中でなんと鞄を強奪された。とても大事なものが入っていて、慌てていたら、またたまたま居合わせたその青年が、取り返してくれ、助けてくれた。
丁重に感謝を述べ、お礼をしたくて誘ったが、爽やかに去っていった。
そのあと、3件目の店に行く途中で車に轢かれそうになった。その時、またまたたまたま偶然に居合わせて助けてくれた命の恩人が、その青年。
意気投合し、次の店は同行し、話の流れから、いつも持ち歩いている家族の写真を見せた。
『へえ…素敵なお嬢さんですね』
一瞬目を見開いてーーその青年は優しく微笑んだという。
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「…よく覚えて、ないって…お父さん?」
ゆりの父親は項垂れた。
「…すまない」
父親が言うには、酔いつぶれてしまって、目が覚めた時ーー青年はいなくなっていた。
そしてピラッと1枚の紙を出した。
『契約書』だ。
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