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「ゆり、あの人ホントカッコええね!」
昨日も。
放課後、ゆりは数名に囲まれていた。
友人の美紅(みく)も、翔子(しょうこ)も、頬を染めて、うぶで、ホントに可愛い女の子だ。
真冬も、美紅や翔子みたいな可愛らしい女の子の方がきっと似合いだろう。
なんの取り柄もない、愛想もない、女子らしくもない、自分よりも…。
「カッコいい…?
はぁ……まあ…外見は、そうなんかもねぇ」
ーー中身は違うと思うんやけど…時々ガラ悪いし…怖いし…
ゆりは憂鬱そうに、ため息をついた。
外見だけは、確かに真冬は、何故か、カッコいい。
でも容姿なんて、遺伝子の不思議だし。ほとんど持って生まれた運みたいなものだ。
清潔感とファッションセンスと努力も要素としてはあるやろうけど。
年齢を重ねると性格が顔に出るとか聞くけど…まだ若い自分たちにはピンとこない。
「なにそれー!ゆりが余裕だあ…
アンタ、愛され過ぎとるんかい??」
「ううう…羨ましいぃぃぃ・・・!!
私なら大喜びするのにさーー!
あんな男いたら、すぐ尻尾振っちゃうよ」
2人はキャピキャピとはしゃぎながら席に戻って行った。
ゆりは思う。
ーーああ『女の子』って可愛いなあ…。
…私以外の子はねー(笑)
確かに真冬のスペックはいいんやろう。
でもーー
ーー自分は、父親の『借金のカタ』みたいなもんやん。
なんでこうなったんか、皆目不明。女子高生好きな、金持ちの道楽なのかも…
『入籍』なんて言ってるけど、せいぜい飽きるまで『愛人』とかにする気なんかもしれんし…ま…まさか変な趣味とかあるんかな…
まるで、1億でアイツに買われるような気がする。
ーーなんでこんなに気に入られたのかも不明。
なんでも平均的で普通な自分よりーー可愛い子、スタイルのいい子、性格のいい子なんかーーたくさん、たくさん、たくさんいるのに。
ほら、この教室にも可愛い子はたくさんおるんよー、あいつ、見に来ればいいやんか…!心移りとか、してくれんかなあ…。
お金…1億…かあ…。
…誰でもよかったのかも、しれんね。女子高生なら。
…誰でもよかったのかも、しれん。ホイホイ返せない大金を貸しつけられる父親がおる、女子高生なら。
・・・もしかしてアイツ、ただの女子高生好き?
…やっぱり変態なんか。
ゆりの目が据わる。
「ねえ、ゆりちゃん、あの人とやっぱ付き合ってるの?
・・・あの人、何歳?」
考え込むゆりに、心配そうに小声で聞いてきたのは、剣道部の橋本拓斗(はしもとたくと)。
高校一年の頃からたまたまずっと同じクラスだ。
「あ!ホント、アイツ何歳やろう?うちとしたことが聞いたことないや…」
ゆりは眉間にしわを寄せる。
ーー20代と思ってたけど、もしかして…意外と40前ぐらいか?あの余裕は…あのテの顔の男の人の年って…わからん。
「ゆ…ゆりちゃん…?顔が…(笑)」
拓斗くんは困ったように笑ってーー少し息を吐いた。
「…困ってるなら、言って。力になりたいから。
俺…ずっとさ…ゆりちゃんのこと…」
じいっと見つめられてーー
ーーえーー!
ちょちょちょちょ…
拓斗くん?
ま…まさか…よく聞くこのフレーズは・・・
まさかのこここここここ告白?
我が人生初の…?!(アイツのはノーカウント)
…そんな雰囲気に、慣れないゆりは焦って赤くなって固まった。
その時
「椿!」
教室の入り口から担任に呼ばれ、ゆりが視線を送るとーー
「え…なんで…」
ゆりはガタっと椅子から立ち上がる。
担任の横で、偉そうに真冬が立っていた。
腕を組んで、扉に寄りかかって、ニヤッと笑ってーー
「…」
拓斗が唇を引き結ぶ。
「じゃ、九条先生、私はこれで…」
担任が去る。
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