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「ゆり」
艶のある、低い声。
女子たちがキャーッと黄色い歓声を上げる。
ゆりには遠くに聞こえた。
ーーなんで。
『安全な』校内まで来るん?
ゆりが固まっていると、真冬が長い足ですたすたと近づく。
「…ふうん…ここがゆりの…」
ゆりの横に立ち、まわりをぐるっと見回す。
真冬は放課後まだ教室に残っていた生徒たちから一斉に視線を浴びているが、気にする風でもない。
視線を回した真冬の視線が、ピタ、と止まった。
ゆりが見ると、真冬は拓斗を余裕の笑みで見つめている。
一方の拓斗はこわばった顔で、睨んでるのかと思うような目で、真冬の視線を受け止めていた。
「…」
真冬は微笑みを浮かべたまま、拓斗を見つめたまま、ゆりの腰を抱き寄せた。
キャーッと悲鳴に似た歓声が上がる。
「…あっ!」
ーーもう!!、と文句を言おうとゆりが真冬に抗議しようと見上げるより早く
「…ゆりは俺の女だ…諦めて」
真冬が小さく微笑んでーーゆりと拓斗だけに聞こえるように、告げた。
拓斗の顔が歪む。
「…ゆりは、嫌がっているようですが…?」
ーーゆ、『ゆり』???
『ゆりちゃん』じゃなくて…
居心地悪く、かといって力では振りほどけずどうすることも出来ない。
ゆりが真冬を見上げると、目が合った。
悲し気に、真冬の瞳が揺れる。
「…ゆり、そうだったのか?
この前もあんなに…俺にしがみついて腰を揺らしてーー
いい声で啼いてたのに…?」
「…っ!!!」
ビックリしすぎてーーゆりは、一瞬、息をするのも忘れた。
「…はあっ…?!
…あ、あ、…アンタねっ…」
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