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ゆりと真冬
「お帰り、ゆり!
ドライブ行こう」
「………!!」
4月の金曜の放課後。
ゆりの通う高校の門の前。派手な車を停めて寄りかかるようにカッコつけて立っているのは、九条真冬(くじょうまふゆ)。
自信にあふれた、満面の笑み。
細く長い足、艶やかな黒目、長いまつ毛、明るい髪色、整った顔立ち、これまた漫画みたくかっこいい髪型。そして高い身長に、広い肩幅。
そのすべてが嫌味な、カッコいいだけの、都会的な、男。
いや、ついでに社会的に成功もしているらしい。悪いのはきっとその性格(知らんけど)ぐらいの、申し分なさ過ぎ男。
とにかく派手。
びゅうと吹いた風が散りかけの桜の花びらを吹き飛ばす。
桜吹雪を背に立つ男ーーなんて都合がいい絵面なんだろう。
目 立 ち す ぎ だ。
…せめて『ホントは増毛です』『シークレットブーツ履いてます』とか秘密でもあればええのに。
変な場所のホクロから変な毛が生えちょる!…とか。
…
ああ。吐きそーや。
ゆりは真冬を睨んだ。
「出た!!まーた、来とるねえ」
「ゆり、例の彼氏の迎えかー」
「あれが?ゆりちゃんの?ちょ…ちょっと…レベル高っ…」
「カッコよすぎるくねぇ…?」
「えーいいなあ!」
「この前のナナハンもすごかったけど…車もええのに乗っとんやなあ・・・」
「初めて見た…!大人の男やん…」
校門から出てくる他学年の子の視線や、友人たちの冷やかし。
17歳の椿ゆり(つばきゆり)は真っ赤になる。ーー腹が、立ちすぎて。
「彼氏じゃないっちゃ…
ごめんっ、みんな!またね」
「うん!またねーデエト楽しんで!
いひひひ…」
ざわざわと騒がしい友人たちと別れ、急いで真冬の元に駆けると、への字口のゆりは真冬の袖をぎゅうっと引っ張った。
じろじろと、行きかう生徒たちからの視線が刺さる。
ゆりは声を少し落として、でも、抗議する。
「もう!
ちょっとアンタ…!なんでまた来とん??
話があるにしても、校門は目立つからイヤって何回も何回も何回も!言っとーやろ!」
「ふっ…ゆり、赤くなって可愛いな」
真冬は自分の袖を掴まれたことをいいことに、反動を使ってグッと距離を詰め、ゆりの腰に両手をまわす。
「ちょ……やめ!
皆の前で
触らんでっちゃ」
「ふふふ…2人きりの時なら、いいんだ?」
とろりと溶けそうな、目線で見下ろす。
「バカやないん??もう…離して!」
屈まれて、顔が近づき、真冬が囁く。
「俺とゆりの仲だ、
今さら…触るぐらい
いいだろ」
「何が!うちらなんもないわ!清々しいほど潔白やんっ!」
ゆりのジタバタは、全く効かない。
男と女の力の差を思い知る、瞬間ーー。
「…たまには見せつけとかないと…変な虫がついたら困るだろ」
「!!…アンタが変な虫やんか…!触るな」
ゆりの本気の抗議に、とても、楽しそうに笑う、真冬。ゆりは笑って力を抜いた真冬の手を思い切りバシバシ叩いて払うと運転席のドアを指さす。
にやにやが止まらず、微笑む真冬。
「…もう!アンタってただでさえ目立つんやけ、はよー乗りっちゃ!」
「いいんだな。ドライブ…
ふふっ…
行くんだな」
真冬は細く骨ばった指でこめかみに気障なVサインを作り、にっこり笑うと、前傾気味に怒ろうとするゆりをさっとかわす。
ゆりの口が言葉を失ってパクパク動いた。
真冬はスマートにゆりのカバンを持ち、流れるような仕草で助手席のドアを開けた。
「どうぞ、俺のお姫様」
「いちいち仕草が古いわっ!」
文句を言いながら、それでも
ゆりは急いで助手席の深いシートにカラダを滑り込ませた。
ほんの少し紅潮する頬に知らん顔をして。
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