天才魔術師トーリンの受難

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「いやぁ。すまないね。こんな辺鄙な場所まで」  グロド・ジェプセンが優雅な所作で椅子に座るよう促す。トーリンは立ったまま丁寧に断る。目の端に入る部屋の様子を注意深く観察する。どこからか取り寄せたのだろう豪華な家具や調度品が趣味よく部屋を彩り、部屋の隅からは彼の成功を物語るように貴重な香木を焚いた香の匂いが立ち込めている。  トーリンはこういった物に学があるわけではないが間違いなく高価なものだというのはわかる。  グロド・ジェプセンは表向きは外国の貴重な香辛料や食料を扱う商人だ。だが、一部の者には周知の事実なのだが、 「そうか。ならこれならやるかね?」  そう言ってワイングラスをすすめる。トーリンはわずかに顔をしかめる。恐らくはワインなのだろうが、これが彼らのジョークなら趣味のいいジョークとは言えない。トーリンの考えを見透かしたのだろう。グロドは口の端を曲げて苦笑いを浮かべる。 「我らの耳にも君の名は聞こえている。四大魔術の短音詠唱の成功や、109芒星魔法陣の開発、古代精霊語の解読による古代精霊との会話の成功・・・数々の研究だけじゃない。バジリスクの毒の魔法薬なしの呪文詠唱のみでの解毒や、あのオーディー二との決闘・・・噂では地獄の牛を退治したとかガンドを「ガンドはただの伝説。お伽話だ」」 「そうかね?噂では君が持ってるとか」 「ただの噂だ」 「そうか。ではこれもただの噂だが知ってるかね?」  そう言ってグロドは小さな小箱をトーリンに差し出す。 「わたしが・・・パルシェスを持っているとね」  グロドは今度はにっこりと口を開いて笑う。そこには異様に伸びた犬歯が光っていた。
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