天才魔術師トーリンの受難

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 魔術師の一つ目の誤算はトーリンが距離をとると思っていた事だ。そのため、まだ呪文の詠唱を終えていなかった。そして誤算はもう一つあった。それは自分の方がトーリンより早く呪文を唱え終わると思っていたことだ。  しかし、誤算というのはトーリンが呪文を、魔術師より早く唱えられる事ではない。  ドカンという鈍い音が響いた・・・魔術師が倒れこむ。顔面にトーリンの拳がめり込んでいる。トーリンは初めから呪文など唱えていなかった。唱えるふりだけして、全速力で魔術師に殴りかかった。    奇襲は完全に成功したーーー片腕が壊れた土人形がこちらを攻撃してくる前には魔術師を倒せる・・・はずだった。  異変を感じたのは拳の感触だった。人の肌にしてはもろすぎる。トーリンが目を向ける。ボロボロと崩れ落ちる肌に、落ちくぼんだ眼窩に埋まった虚ろな眼がトーリンを見ていた。その眼はトーリンを見ているが何も写ってはいない。  (土人ぎょ・・・)次の瞬間、トーリンの体に何かが絡みつく。  
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