天才魔術師トーリンの受難

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 「流石は天才魔術師と呼ばれるだけはある」  ぶくぶくとみずからの体を波立たせながら言葉を発する。泥のように見えたそれは今や泥ではなく水色の粘液で出来た植物のツルのようにトーリンに巻き付いている。 「何だよ。やっと地声が聞けたと思ったら随分とおしゃべりだな」  トーリンは巻き付かれながらも余裕の態度を崩さないが実際かなりまずい。 巻き付いたそれは確実にトーリンの顔を目指して這い上ってきている。必死にひきはがそうとはするが、植物のツルのようだったそれはもはや獰猛な蛇のように足首に絡みつき、腰、胴とゆっくりとのぼってきている。  このまま口を塞がれればもう呪文は唱えられない。そうなれば待っているのは・・・。 「これで最後だ。受難を渡せ」  水色だった表面は今や銀色から金色となってトーリンに固く巻き付いている。この状況で唱えられる呪文は限られている。振りほどこうとすればするほど、ますますきつく巻き付いてくる。 「受難さえ渡せば用はない、実際見事だ。釣り餌を見抜き、あれだけのゴーレム・・・」 「土人形」    男のゴーレムという言葉をトーリンが素早く遮る。古の魔術では土人形をゴーレムと言ったらしいという記憶が脳内をかすめる。その随分と雅な言葉に違和感を感じる。 「ゴーレムだ」  トーリンの言葉を断ち切る。
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