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トーリンを縛り付けるゴーレムが、感情を爆発させたかのような男の怒声と同時にあたりにびちゃびちゃとみずからの体の一部を飛び散らせる。
「いいか?ゴーレムだ。私の作品を二度と土人形などとよぶな」
少しの間が空き、ゴーレムは全身をわずかに波立たせる。それは男の笑顔のように思えた。トーリンに絡みついたゴーレムの一部は細かい波を立たせ続けており、興奮と歓喜で痙攣しているように感じた。
「最初の釣り餌をかわし、私のゴーレムたちを倒し、あまつさえ最後の餌であり私の二番目の最高傑作である人型ゴーレムをあんな形で倒すとは・・・初めてだ。正に噂にたがわぬ天才魔術師だ。驚きだよ」
「こっちも驚きだよ。まさかゴーレムを操るどころか自分をゴーレムにするなんてな・・・しかも、そんな奇妙なゴーレム見た事がない」
「これが私の一番の最高傑作だ。不定形のゴーレムをつくることでどのような形にもなれる。これからのゴーレムはみなこの形になる。間違いなくな」
研究仲間に自分の研究を発表するかのような気軽さで、トーリンに話しかける。しかし、トーリンは不自然さを感じてはいなかった。勝利を確信した油断というのもあるだろう。実際、話してる間にも、ゴーレムはじわじわと顎のあたりまで迫っており、勝利を確信しているのは間違いない。
だが、この気軽さはある程度の領域に辿り着いた魔術師同士がわかる親近感だった。この魔術師はゴーレムを愛しているのだ。ゴーレムを使った魔術で様々な戦術を練り、それを試したかったに違いない。しかし、あれだけ大量のゴーレムを用意した時点で大抵の魔術師は屈するだろう。だが、それはこの自らをゴーレムにまで変えてしまう魔術師にとって一番つまらない魔術だ。ただ自分の作ったゴーレムを並べただけ。だが、それで大抵の魔術師には勝ててしまう。人型の自分に似せたゴーレムの罠に気づく者さえいない。
自分の全力を出せる相手がいない・・・これはトーリンにはよくわかった。
だから、敵の称賛も心からのものだと理解した。
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