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通夜の席で、瑠花の母親は遺影を抱き締めてこう言った。
「憎い。いくら憎んでも憎いっ!!」
犯人はまだ捕まっていない。
涙を流すその姿は儚いのに、声と表情は悪魔のようだった。
春樹は、犯人を知っている。
瑠花がいなくなる前日。
春樹がした最後の会話。
「バイト先の先輩がうざくてさ。今日の飲み会、早く切り上げて帰って来るから。…許してくれてありがとう」
「本当は嫌なんだからな。…行ってらっしゃい。気をつけろよ」
「うん。ねぇー、ちょっと来て」
手招きをする瑠花の元に行く。
すると。
淡い口づけ。
「ふふっ。行ってきます」
これが、最後の会話だった。
警察が春樹の元へ訪ねて来た。
用件は言われずともわかる。
瑠花の件だ。
瑠花が最後に何をしに行ったか、警察には話した。
飲み会に行ったのだと。
でも、うざい先輩が居たことは言わなかった。
警察なら春樹に訊かなくても飲み会に行っていたことなど簡単にわかるだろう。
勿論瑠花のバイト先にも行ったはずだ。
そこでの収穫がなかったから春樹の元へ来た。
そんなところだろう。
警察に春樹の掴んでいる情報を話せば犯人は直ぐ逮捕される。
そんなことはわかっていた。
逮捕されたらもう春樹の手では裁きをくだせない。
逮捕されてそれで終わりだ。
人一人殺したくらいじゃ死刑にはならない。しかも犯人が若い場合は確率はもっと低くなる。
何十年かしたらまた普通の生活を送るんだ。
人の婚約者を奪っておいて。
そんなの。
絶対に許さない。
…俺が、殺してやるよ。
飲み会の次の日。瑠花から一度だけ電話があった。
でも、その電話は瑠花の一言で切れた。
「助けて春樹っ!!市川に殺されるっ!!」
その、たった一言。
次の日だ。
瑠花が水死体で発見されたのは。
市川 勉
瑠花の言っていた。
うざい先輩。
瑠花に気があるらしかった。
待ってろ。…直ぐに殺しに行く。
警察になんて、絶対に言わない。
俺が殺すんだ。
…待ってろ。
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