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瑠花からの電話の後、血眼になって探し続けた。
飲み会で羽目を外したにしろ、今まで遅くなるのに連絡がないなんてことなかったからだ。
正直不安でしかない。
市川は、かなりのイケメンで女ったらし、そう瑠花から話を聞いていた。
まさかお持ち帰りされたのではないか、酒に酔っていいようにされたのではないか。
瑠花の帰りを待っていると、その不安は春樹を寝かせてくれなかった。
杞憂で終わって欲しい。
もっと早く動き出せばよかったのかも知れない。
瑠花が一日帰って来ないだけで探しにいくべきだった。
電話があったとき、春樹はどうしようもない畏怖と不安で家を飛び出したんだ。
市川に、殺される…?
なんの話だ…。
バイト先にも行った。
瑠花は一次会で帰ったと、バイト先の人は言った。
市川も帰ったのだと。
一次会で帰る人は何人も居たのだ
と。
市川の住所も訊いてはみたが個人情報だからと教えてもらえなかった。
瑠花が行きそうな場所は全て探した。
不本意だったけど、飲み会が行われた場所の近くにあるビジネスホテルやラブホテルにも聞き込みをした。
瑠花の友達にも電話した。
瑠花の母親にも電話した。
でも。
「一日帰って来ないだけで心配し過ぎだよ。その内帰って来るから、家で待ってれば…」
「殺されるって電話があったんだっ!!」
「お酒飲んでたんでしょ?悪戯だよ」
「瑠花はそんなことしないっ!!」
「…日影くん。あの娘はね」
…悪戯、するよ。
電話は切った。
なんだそれ。
なんなんだっ!!
お前らそれでも友達かっ!?
それでも、心のどこかで春樹にもそんな気持ちがあったのかも知れない。
瑠花はたまに悪戯をした。
可愛らしい、許せてしまう些細なことばかりだったけど、瑠花の友達が言うように。
確かに悪戯をする。
だから。
直ぐ警察に電話しなかったんだ。
唯一、瑠花の母親だけが春樹の不安を悟ってくれた。
一緒に何時間も探してくれた。
「お母さん。すいません突然…」
「あら春樹くん?どうしたの?」
「瑠花が、帰って来ないんです…」
殺されると電話があったこと。
それだけは。
瑠花の母親には言えなかった。
どこだっ!?瑠花…。
どこ行った?
何があった?
どうして電話に出ないっ!!
なんで帰って来ないっ!!
どこ行ったんだっ!!!
瑠花…。
瑠花、瑠花、瑠花、瑠花、瑠花ぁ!瑠花ぁっ!!!
唐突に、携帯の着信音が鳴り響いた。
瑠花かと思いすぐに携帯の画面を見る。
でも違った。
瑠花の母親から着信があったのは、探しだして十時間が過ぎた頃だった。
その電話の内容に。
春樹の思考は停止した。
携帯を耳に当てたまま、動けなかった。
「春樹、くん。ーー瑠花が…瑠花がぁぁぁーっ!!!」
…えっ。
何を言っているのか、春樹は暫くわからなかった。
瑠花が。
死体で発見された。
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