恋文1

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恋文1

 幼馴染みや、顔なじみなど、直接会える間柄であれば、顔を合わす機会を増やしたり、態度に出してみたり、駆け引きしたりなんかして、頃合いをみて相手に直接恋心を告げる事もあったと思います。  一方、一目惚れなど、それまで接点の無い相手へのアプローチには、恋文(こいぶみ)が大活躍です。  恋心を伝えたいけれど、なんて書いていいのか分からない、と言う人もご安心!文例付きで丁寧に教えてくれる指南書がありました。 指南書は、用途によって様々用意されていました。 ●実践的な例文、心構えを書いたもの 「女用文忍草(おんなようぶんしのびぐさ)」、「新板 恋の文尽(ふみつ)くし」等 ●公家や武家の子女の情操教育に使われてきた、古典から和歌や恋文を学ぶもの 「詞花懸露集(しかげんろしゅう)」や、「堀河院艶書合(ほりかわいんえんしょあわ)せ」(堀河天皇主催の歌合せの記録)(艶書とは恋文の事です) ●物語中に出て来る恋文を実践的な例文として活用するもの 「うすゆき物語」等 ~主人公が清水寺で見初めた薄雪さんに恋文を送る事から始まります。しかし、薄雪さんはなんと既婚者。その為ずっとその思いを断り続けます。それでも主人公は諦めず恋文を送り続けるうち、思いが通じるのですが、その後、薄雪さんは急死、主人公も出家し亡くなるという、なんとも言い難いストーリーです~  さて、実践的な指南書には、恋文を送りたい相手別に例文が載っているのですが、その相手のラインナップ(;゚Д゚) 奥務めの女性、若後家、離縁した妻、他人の妾、尼、そしてなんと、妻の妹まで・・・・・・。どんなニーズがあるか分からない中、取りこぼしが無いようにとの配慮でしょうか? 取りこぼしてもいいんじゃないだろうか(・_・;)  その他に、遊女が客に送る文の指南書もありました。馴染み客、二度目の客、御無沙汰な客などに宛てる文のほか、吉原の八朔のように是が非でも客を取らないといけない日に来てくれるように依頼する例文も載っていたようです。  例文は、初めて送る文、それを返す文のように、送る文と返事の文が1セットとなっています。 初めての付文、返事・断りの返事 逢ってのち男へ送る文、男からの返事 懇ろの男のかたへ送る文、男からの返事 参宮にて見初めし文、返しの文 つれなき女へおくる文、女からの返事 等など、こちらも細やかで多岐にわたるラインナップです。 【初めて送る恋の文例文】(句読点をつけています)  文とは、あまりに御馴れ馴れしく(そうら)えども、思いに耐え兼ね、密かに示し参らせ候。  さてとや、いかに成りえにしや、過ごし頃、住吉へご参拝のふし、図らず、お道連れになりまして候て、おめもじ成りまいらせ候ひしより、片時忘るる暇とてなく、御ゆかしく思いまいらせ候。  定めし我々風情の申す事、お聞き入れも有まじと、幾たびか、幾たびか、心で心を叱り候へども、今更にとどまりがたく、遣るかたなき心根をお察しあそばし、何とぞかし麗しきお返し、くれぐれ待ち入りまいらせ候。  何事も人目を忍び申し残しまいらせ候。 めでたくかしこ (訳)  文を差し上げるのは誠に馴れ馴れしいのですが、この思いに耐え兼ねて、密かに思いをお伝えします。  さて、どんなご縁があったのでしょうか、先日住吉神社へ参詣した折に、図らずもご同道する事になりました。その時にお目にかかってからというもの、片時も忘れられず、ゆかしく思っております。  きっと、私のような者の言う事は取り合ってはくださらないと、何度も自制してきましたが、溢れる思いを止める事ができませんでした。どうかこの思いをお察しくださって、良いお返事をお待ちしています。ずっとお待ちしています。何事も人目を偲んでおりますので、御内密にお願いします。それでは。    次回は恋文を出した後、お返事を貰えたり、貰えなかったり奮闘記?を予定しています。  
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