第四話 可もなく不可もなく……

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(お姉ちゃんは美人なだけじゃなくて華があるもんな。人を惹き付けるオーラというか……) 「真凛は部活、どうするの?」  姉の質問にハッと現実に返る。演劇部、と咄嗟に言い出せず、口から出た言葉は 「あ、うーんと。まだ考え中……かな、アハハ」  という誤魔化しだった。裏返った声、乾いた笑いが虚しい。 「そう。……園芸部とかガーデニング部とか無いの?」 「園芸部?」  予想外の姉の質問に面食らう。記憶を辿り、部活動・同好会一覧を思い浮かべる。 「無いみたいだけど……?」  姉の真意をはかり兼ね小首を(かし)げる。 「無いのか。あればいいのにね、てお母さんと話してたのよね」 「お母さんと?」 「そう。だって真凛、小さい時からガーデニング得意じゃない。将来、庭師(ガーデナー)の道に進むのもありだね、て話してたの」 「あ、あぁ、そういう事か。庭弄りは好きだけど、ガーデニングなんて本格的なもんじゃないし。本で読んだりネットで調べた範囲内で趣味で感覚的にしてるだけだからさ」  母親と姉の心情が判明し、激しく落ち込みながらも明るく笑顔で応じた。 「でもさぁ、好きなら向いていると思うし……」 「うん、有難う。園芸とか学校だと限られた花壇しかないし、なかなか難しいんじゃないかな。有難う。部活、どこに入るか来週中には決めるよ」  喉の奥がツーンと痛くなり、その痛みが鼻の奥へ移動し、じわっと瞳に透明の膜がりそうになった。慌てて会話を切り上げると、「じゃ、またね!」と声をかけて洗面所へと逃げ込む。ガラリと目の前の引き戸が閉められ、一華は何か言いいたそうに口を開きかけた。だが、諦めたように首をゆっくりと横に振ると、自室に向かって歩みを進めた。  洗面所に籠ると、真凛は蛇口を強めに開いた。ジャ―――という水の流れる音で、万が一嗚咽が込み上げた際の予防線を張る。眼鏡を取ると棚の上に置き、両手で水を掬ってバシャバシャと顔を洗い始めた。 (いつもそうだ。私に何も褒めるところがないから、無理矢理褒めるところを見つけて大げさに褒める。お父さんもお母さんはそうだから、お姉ちゃんも、弟まで空気読んでさ。兄弟姉妹で分け隔てはいけない、て事で……)    例えば真凛が小さい学校三年の時、姉が作文で文部大臣賞を受賞。少し後に、弟が幼稚園の縄跳び大会で優勝。真凛には何も無く。父も母も、一華を褒める時は必ず真凛と大地も、大地を褒める時は真凛と一華を褒めるようにしてきた。年齢が上がる毎に、大地も一華も学校の成績だけでなく絵画や文芸、部活などで益々抜きんでるようになっていく。そうした中、何をやっても可もなく不可もない真凛を盛り上げようと、 「真凛は箸の持ち方に気品があるな。なかなか出来る事じゃない。大したもんだ」 「そうね、これは持って生まれた才能だわ」 「運動会のフォークダンス、真凛の足さばきは誰よりも綺麗だったな」 「そうね、一番輝いていたわ」  このように、父と母が毎度苦心して真凛の良い部分を探し出すのだ。大地も一も、しっかりと両親の涙ぐまし努力を理解し、真凛を褒めあげる。今回の母と姉が園芸部を勧めたのも、そういう経緯が透けて見えた。 (無理矢理褒めるところをこじつけて称賛して貰っても嬉しくないどころか非常に苦痛なんだよ!)  そう叫びたかった。いっそ「辞めて!」と言えたら……。けれども、家が自分の為に必死で心を砕いている事も分かる為、何も言えず気付かないふりをし続けていた。
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