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真凛は本当に嬉しそうに微笑んだ。相変わらず声は小さいが、聞こえない程ではない。本人もそれを気にしてなるべく声を張るようにしてみるものの、笑顔の表情は作れても声を張るのは難しいらしい。自分に自信がないから、声にダイレクトに影響してしまうのだ。 声をかけて来た少女は顔を見合わせて微笑み合うと、
「勿論、うちら中学から一緒なんだけど二人だけのランチで寂しかったから」 「そうそう。色々話そう」
と言って背の高い女子が真凛の席を用意しに、小柄な少女は真凛の鞄とバッグを持って席へと案内した。三人で揃ってランチを食べ始める。すぐにショートヘアの子が親し気に口を開く。
「私、安西千賀子。千賀子とか千賀って呼んで。宜しくね」 クリクリした栗色の目が生き生きと輝く。『キュート』という表現がピッタリの溌剌とした美少女だ。
「久川真凛です、宜しく」
すかさず真凛も応じる。(学級委員とか任されそうなタイプだな)と分析しながら。続いて色白で小柄な少女が微笑む。笑うと右の口元にエクボが出来、それがまた可愛らしさを倍増させる。柔らかそうな茶色い髪をツインテールにしており、目尻が少し下がった大きな茶色の瞳と不思議なくらい似合っていた。
「私は萩野沙耶。沙耶って呼んで」
(マショマロみたいで美味しそうだ。書記か保険係り、てタイプかな)と分析しつつ、真凛は笑顔を向け軽く頭を下げた。
「何て呼べば良いかな?」
千賀子は気さくに話しかける。
(そう言えば呼び名、言ってなかった。駄目だな、目の前の会話を成立させる事にばかり気を取られて……)
「えーと、真凛でも久川でも好きなように呼んで」
「じゃぁ、真凛で」
「うん、いいよ」
沙耶はニコニコしながら真凛と千賀子の会話を見守る。そして口を開いた。
「部活どこに入るか決めた? 私はまだ迷い中なんだ。吹奏楽部かコーラス部のどっちかにしようとは思っているんだけど」
真凛は途端にどう答えようか迷い出す。
「私はバスケ部」
千賀子は即答した。
「千賀子はバスケ部の特待生だもんね」
沙耶はうんうん、と納得したように頷く。
(特待生かぁ。そう言えばこの高校、バスケ強かったんだっけ)
「へぇ? 凄いねぇ」
真凛は本当にそう思った。何となく、弟の大地も走り高跳びの特待生で高校は決まりそうだ、と感じた。
「私はまだ迷い中」
咄嗟にそう答えてしまった。
(あーあ、せっかく正直に答えるチャンスだったのに……。放課後までには言おう)
その後はドラマの話や食べ物の話やらでとりとめのない会話を交わし、昼休みは終了となった。
(こうやって、なんだかんだと情けをかけ貰えるから『ぼっち』にならないで済むんだよね)
と真凛はつくづく思う。真凛の分析結果によると、人より抜きんでるものが無く何をやっても平均的で可もなく不可もなく、その他大勢で人畜無害であると他人には映るらしい。
目立たない存在であるが故に、クラスのリーダー的存在の者や世話好きな人たちによると、「仲間はずれ」は可哀想だ、という心理が働くらしい。お陰で小学校、中学校と一人ぼっちでいる事は無かった。これは何も生徒に限った事ではない。先生もそうだ。空気みたいな存在だから忘れてしまっては大変だ、とばかりに何かと声をかける。
(それって、きっと。家の両親がなんとかして私の良い部分を引き出そう、盛り上げようとするのと同じような心理なんだろうなぁ。そのわりに、普段は私の存在なんかすっからかんに忘れて大地やお姉ちゃんとの会話に夢中になったり。……なんだかよく分からないや)
真凛は誰にも聞こえぬよう、小さな溜息をついた。
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