第五話 憧れの高校デビューは泡沫の……

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 晴れて志望校に合格! 意気揚々と高校デビューと息巻いていた彼女は。まずは外見から、と小遣いを叩いてコンタクトをしてみようと勇気を振り絞って眼科を受診。  結果は…… 「ドライアイの傾向があるから、一週間に一度8時間程度なら良いけど、常時使用は辞めた方が良いでしょう」  という見解だった。ガクリと肩を落としつつも、たまにするのなら一日使い捨てが良いとの事で、装着の仕方と外し方を伝授してもらい、勧められたコンタクトレンズを左右一箱ずつ購入したのだった。そのコンタクトは封を切られぬまま、机の引き出しに大切にしまわれ、いつかデビューする日を夢見ている……かもしれない。日の目を見ないまま、朽ち果てていく事を恐れながら。 「さぁ、生まれ変わるぞ! モブからメインキャラに!」  と気合いを入れて行った入学式。式に参加し、心配そうに新入生オリエンテーションに参加する娘を見つめる母親に「心配しないで」と笑顔で帰らせ、青春の情熱に溢れる部活動の新入生歓迎の場へと足を踏み入れる。 (ま、眩し過ぎる……。み、皆さんキラキラし過ぎて、日陰の私は、と。溶けそう……。「憧れの高校デビューは泡沫の水面に消える夢の儚さ」て感じになるんじゃ……あれ? 短歌になってる?)  フラフラとと息も絶え絶えの様子で校庭の隅の木陰を目指そうとした時、甘くて優しく包み込むようなライラックの香りに誘われ……。  こう言った経緯のようだ。おや? 授業が終了したようだ。日直の男女が教室の机を揃え、黒板を綺麗にしたりしている間、真凛は出来たばかりの友達二人と会話をしている。 「……うん、仮入部期間一週間の間、三日は吹奏楽部。残りの三日は合唱部。ラストの一日で決めようと思ってさ」  と沙耶。 「そっか。それは賢いかも!」  千賀子だ。 「え? そうか。仮入部期間があったか……」  本音を漏らす真凛。 「え? もしかし直接入部するつもり?」 「凄い勇気じゃん」  二人とも驚いて真凛を見つめる。 「う、うん、まぁ……優柔不断なもんで、考え過ぎて決められないタイプだから、思い切ってさ」 「どこ?」 「何部?」  しどろもどろに応ずる真凛に、矢継ぎ早に質問する二人。もう誤魔化しが効かない状況かつ言った後の展開が予測出来る。 「えーとね、演劇部」  さらりと答えた。同時に目を丸くする二人。ほら、やっぱり、と内心で苦笑する真凛。 「い、意外ー!」 「ねー!」  はいはい、お約束お約束、と真凛は思いながらも 「アハハ、だよね。心機一転てやつ」  とこたえた。慌てた様子の二人。 「あ、ごめん、変な意味じゃないよ」   取り繕う沙耶。  「そうそう、なんかほら、華道部とか文芸部とかに向いてそうだったから」  と、上手くとりなす千賀子。 「うん、大丈夫だよ。バスケ部は体育館だし、吹奏楽も音楽室だっけ?」 「うん、音楽室A」 「じゃ、三人とも途中まで一緒だね。行こうか」  上手く流し、さり気なく二人を促す自分に驚きながら、真凛は先頭に立って教室ろ出た。
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