第三話 脇役の花

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第三話 脇役の花

ーーーーーーーーー  突然だけど、常々思っていた事がある。世の中には大きく分けて四つのタイプの人間があると。一つ目は、努力すれば大抵の事は望んだ結果が得られるタイプ。二つ目は、さほど努力しなくても望む結果が得られるタイプ。三つめは、どんなに頑張ってみても望む結果は得られないタイプ。四つ目は、最初から諦めて努力もせずに流されるままに生きるタイプだ。殆どの人間はタイプ1とタイプ2の中間くらいだろうか。私は明らかにタイプ3である。 ーーーーーーーーー  真凛はそこでパソコンに打ちこんでいた手を止めた。そして両肩をガクッとおろし、大きな溜息をつく。 「あーあ、こうやって改めて文字にしてみると、ガーンと落ち込むなぁ……」  と呟いた。彼女はほぼ毎晩、眠る前までに『秘密の日記』を書く事が習慣となっているらしい。日記を書く事で自分の思考を整理するし客観視する目的と、それによって自身を励ましたり慰めたり喝を入れたりしやすいようだ。小学校三年生の時の担任が、授業中に何かの話のついでに日記を書く事をすすめたのが切っ掛けで書き始めた。 「毎度の事で、慣れてはいたけど。なんだかなぁ……変われるのかな、自分……」  頬杖をつき、先ほどの出来事を思い起こす。  ハッピーライラックの効果だ、とウキウキしながら玄関のドアを開けた。 「ただいまー」  キッチンにいた母親が「お帰り」と言いながら出迎えてくれる。 「お昼、すぐ出来るから座って待ってて」 「うん、有難う」  そんな会話を交わし、真凛は洗面所で手洗いとウガイを済ませた。そして2階の自室に鞄とバッグお置き、淡いブルーのスエット上下に着替えてから階下のリビングへと向かう。 「大地は朝からお友達のところに遊びに行っていて。お昼前には戻る、て言ったのにまだ帰って来てないし。一華(いちか)は今日はバイトだからお昼いらないって。だから二人で食べちゃいましょう」  母親と共に食事を運ぶ。ランチはチャーハンと野菜スープだ。大地は小学校六年生になる弟。一華はこの春大学生になった姉である。 「部活、入りたいところあった?」 (お母さん、今日も綺麗だな。ホントに「和風美女」て感じだ)などと思いながら向かい合って座る母親を見つめる。色白細面に涼やかな目元。高く上品な鼻、形の良い唇は名にもつけずとも赤く、漆黒の髪はストレートで肩まで伸ばされ、右横に一つに結んでいる。白の長袖Tシャツに紺色のデニムが中背でスリムな体によく似合っていた。 「うん、あのね、実は……」 「ただ今ー! お母さん、お腹空いた!」  真凛が『演劇部』に入る事にした、と言いかける途中で、弟の元気良い声が響く。 「こらこら、廊下は走らないと何度言ったら……」  母親は、もう仕方無いわね、というように席を立つと、キッチンにスープとチャーハンを温めに行った。口ではたしなめるように言いつつも、可愛くて仕方無いというような愛情が滲み出ている。弟は母親によく似ていた。面長の顔の輪郭、母親の細い三日月眉を濃くキリリとさせ、目尻を少し上がり気味にすると弟になる。少し日焼けした肌は象牙色だ。細身でスリムな彼は、小柄な真凛の背をとうに追い越している。育ち盛りの彼は父親に似てまだまだ背が伸びそうだ。  その後は弟と母と真凛の三人でランチタイムとなったが、会話の中心は弟となった。いつものパターンだと内心で苦笑しつつ、今日の夕飯時は家族全員が揃うからその時に切り出そう、そう思った。  
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