第三話 脇役の花

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そして夕飯時……。皆一斉に「いただきます」と声を揃えて各自食べ始める。今か今かと機会を狙っていた真凛は、今がチャンス! とばかりに口を開いた。 「あのね、今日部活……」 「そういえばさぁ、今日バイト先で面白い事があってね」  真凛とほぼ同時に姉の一華が話し始めた。 (終わった……もう誰も私の話なんか見向きもしないや。いつもと同じ、空気と化したな)  真凛はガクリと項垂れた。 「あら、何々?」 「何があったんだ?」 「どうした?」  案の定、母も父も弟も、姉の話に興味を示し身を乗り出す。真凛はとてもではないが、この空気をぶち壊してまで自分の話を聞いて貰う勇気はなかった。 (仕方無い、またの機会に話そう……)  と静かに姉の話に耳を傾ける。けれども、その話の内容はちっとも真凛の頭には入って来なかった。 (あーぁ。私、本当にここの家の子かなぁ)  自分が何をやっても可もなく不可もなく、平々凡々としているだけだ、と気付いてから何度そう思ったろう?  父親は区役所勤め、母親は音大出身で元は中学の音楽教師、子育てが一段落ついた今は、平日の昼間はピアノ教室を開いている。姉は母の血を濃厚に受け継いだようで、都内の音大に通っている。小学校の時から、各ピアノコンクールでは何度も入賞を重ね続けており、将来を期待されている日本のピアノ界のホープという事だ。因みに、彼女のアルバイトは音楽教室の講師の助手である。  弟は陸上競技部。走り高跳びで関東大会第一位。彼もまた将来が大いに期待されている。  そのような経緯から、夕食が終わる頃食器を片付けるのを手伝って自室に引き上げて来たのだった。 「……モブキャラかぁ。でもお花の脇役は、何だかんだ言って単体だけでも十分主役になれると思うんだよな。代表的なのはカスミソウかな。コデマリとかレースワラワ―とかも単体で花束にしたら綺麗だし。ブルースターも可愛らしいし。オー二ソガラムも清楚で綺麗よね……」  ガーデニングが趣味の彼女は、花を思い浮かべる時とても楽しそうに口元が綻ぶ。自虐的だった筈が、いつの間にか自宅の庭の模様替えの事について考えていたのだった。  
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