第五話 憧れの高校デビューは泡沫の……

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第五話 憧れの高校デビューは泡沫の……

  月曜日、6時間目の授業は現代文だった。国語は好きな科目の一つだったが、真凛は緊張でガチガチになっていた。別に、いきなり教師に指されて答えられなかった訳ではない。授業が終われば、初の部活が始まるからである。 (ダメダメ、授業を疎かにしたら。死ぬほど勉強して合格出来たんだから。初っ端からついていけないなんて洒落にならない)  そう自分を戒め、授業に集中しようとする。真凛が授業を真剣に受けている間、少し彼女の過去を見てみよう。  彼女は中学生くらいだろうか。夢中になって漫画の本を読んでいる。漫画のタイトルは『青春物語』というらしい。机の上にはティッシュボックスが置かれている。時々肩に力を入れたり、瞳を潤ませ眼鏡を軽く外してティッシュで涙を拭うシーンも見受けられた。  漫画の内容は、普通ならその他大勢として名も無きキャラとして、主人公を彩るギャラリーの一人として登場する女子がヒロインの青春物語のようだ。何をやっても目立たず、半ば諦めて慎ましく生きてきた中学一年生の彼女が、ある日曜日、家の近くの公園で楽しそうに和歌を詠む5名の男女のグループを見掛ける。見た事のある高校の制服を着ており、心から楽しそうに語り合う彼らが光輝いて見えた。中でも、一際美形の男子に一目惚れし……。叶わぬ恋と知りながら、一念発起。彼の通う高校を目指して猛勉強を始め見事合格。オリエンテーションの日、そ彼の所属する部活『競技かるた部』であると知り、勇気を出して入部する。そこから紆余曲折を繰り返しながらも、自分らしく輝いて行くという物語だ。  憧れの彼もまた、ヒロインを憎からず思っているらしく、読者をやきもきさせばがらもヒロインを応援したくなる。そんな魅力があるらしい。地味で目立たない脇役キャラそのままを絵にし、美化しなかったところも真凛が惹かれた理由の一つだ。  漫画はまだ連載中であるが、その漫画のヒロインに自らを重ね合わせ、並々ならぬ感銘を受けた真凛は、自分も頑張るぞと奮起したのが切っ掛けで「星合高校」を目指したようだ。その高校を目指したのは、都内有数の進学校の一つである事。かつ、兼ねてより制服が可愛らしいという秘かな憧れもあったらしい。 「よし! 憧れの高校デビューだ!!」  庭弄りが大好きな彼女は、ところどころ、雑草とヒロインを重ねて表現されている部分も気に入ったらしい。特に部活も入っていなかった為、何なく勉強時間も確保出来た上、元々の成績自体が苦手な理数系を覗いては上位の方だったので、進学塾に通うようになってから成績はぐんぐん伸びた。普段おねだりする事のない真凛が、深刻な表情で両親に「進学塾に通わせて欲しい」と願い出た際は両親はびっくりしつつも嬉しそうに快諾。初めての体験である娘に合うよう、スパルタで厳しく鍛えるところを避け、個人に寄り添って個性に合うように教えてくれる塾を探した。だが、この両親の努力を真凛自身は知る由もないのだが……。  
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