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伝説の傘
「これが伝説の傘か」
「いかにも」
私は、村の長老に導かれて、苔むした平岩の前に立っていた。岩の中央には、黒い傘がまっすぐに突き刺さっている。持ち手だけが白い。平岩の周りは厳重な封印や結界が施されていたが、お試し料金を支払うことで通過した。
「普通の傘のように見えるがなぁ」
「見た目で判断してはいけません」
長老は重々しく答えた。なかなか良い身なりをしている。お試し料金の徴収で、この村はだいぶ潤っているようである。
「日差しも防げます」
「うん、普通の傘でも日差しは……」
「それだけではございません」
長老は声を高めた。
「暴風波浪はもちろんのこと、吹雪も火炎も矢も弾も刀も跳ね返す、と言われています」
「それはすご……」
「さらに」
長老は胸を反らせた。スタンディングブリッジでもする気か。
「防御のみならず攻撃もお手の物。先端には銃や刀を仕込める上、アタッチメントで様々な機能拡充が可能です」
「……アタッチメントって。通販みたいだな」
長老は少し苦し気に反り返った旨を元に戻した。どこか筋を痛めたらしく、顔をしかめている。
「これほどの能力を秘めているがゆえに、選ばれし者のみがその手中に収めるべし、ということでございます」
「なるほどね。でもそれは腕力次第なのでは」
「まずはお試しくださいませ」
長老はわずかに口角を上げた。侮られたような気がして腹が立つ。女だからと見くびっているのか。持ち手を握った手に力を込めた瞬間、強烈な電撃が私の体を貫いた。
「……っ」
「この通り、うかつに引き抜こうとする者には相応の報いがある、という言い伝えがございます」
「事前に言ってくれないかそういうことは」
「申し訳ございません」
掌を握り、また開き、指や手、腕から全身の動作を確認する。しびれは収まった。異常はない。道具袋から、絶縁手袋を取り出して装着した。電気が来ると聞いていたなら備えはあったのだ、まったくもう。
深呼吸して気を取り直す。持ち手を握ると、ジュッと音を上げて手袋が溶けた。
「……っ」
「報いにも様々な種類があるとのことでございます」
手袋を手から引きはがす。その間にもどんどん溶解箇所が広がっていく。あたふたはしたが、何とか穴が貫通する前に取り去ることができたので、手は無事だった。
「だから前もって言ってよ、何で出し惜しむの」
「申し訳ございません」
「他には。どんな報いがあるわけ。他にもあるんでしょ」
「さようでございますね。ものの本によりますと、凍り付いたり、傘そのものが柔らかくなったり、茨のようなとげがびっしりと生えたり、毒をまき散らしたり、とにかく対策の裏をかいてくるような嫌らしさがあるとのことでございます。それもあって、こうして引き抜かれることなく、今に至っているわけでございまして」
「魔法は」
「結界の中では使用できません」
「あ、そう」
胸の前で腕を組む。結局、単純な引き抜きは何としてでも阻止する意図が感じられる。どんな対策を取ろうが、別の妨害をされるのだ。引き抜くなら、だ。
「シャベル、スコップ、つるはし、ハンマー持ってきて」
長老が手配すると、ものの五分で道具は集まった。
「あの、これは」
「もうね、引き抜かない。掘り起こす」
「そ、そんなことはまかりなりま…」
長老は色をなして反駁しかけたが、途中で首をかしげた。
「あの岩から傘を取り出せばいいんでしょ。引き抜かなきゃダメなわけじゃないでしょ」
「……明記はされておりませんな」
「あと、何人か呼んで手伝わせて」
「そ、そんなことは…」
「書いてるの」
「……人数は特に」
「じゃ、お願い」
さらに五分後には道具を抱えた男が四人やってきたので、五方面から均等に、少しずつ慎重に掘り進めるよう指示してから作業を開始した。
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