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腰の辺り、ポケットの中をまさぐる。小さなケースを手にして上下にケースの蓋を開く。
本当は今日渡すつもりだった、婚約指輪がケースの中で煌めく。
「兄貴――!」
リビングの扉の方へ叫んだ。もう伊織からの返事は聞こえない。
まだ間に合うか――? 沙羅を追いかけた伊織を追うが、もう伊織の姿は見当たらない。馬鹿だ俺は。どうして沙羅を追いかけなかった。
何が一番大切かを知っている、沙羅は失くせない。
「どうして出ない……」
伊織はおそらく運転中か。沙羅は携帯を鞄にしまい込んで気が付かないのかもしれない。
沙羅が見えないなら、俺が君を見つける。何ひとつ見落とさないように、沙羅の声を俺が聞かなきゃだめなんだ。
沙羅―― 君を愛してる。
もどかしさの中を駆け出した。
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