RedRose [情熱]

17/17
1467人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
 腰の辺り、ポケットの中をまさぐる。小さなケースを手にして上下にケースの蓋を開く。  本当は今日渡すつもりだった、婚約指輪がケースの中で煌めく。 「兄貴――!」 リビングの扉の方へ叫んだ。もう伊織からの返事は聞こえない。  まだ間に合うか――? 沙羅を追いかけた伊織を追うが、もう伊織の姿は見当たらない。馬鹿だ俺は。どうして沙羅を追いかけなかった。  何が一番大切かを知っている、沙羅は失くせない。 「どうして出ない……」 伊織はおそらく運転中か。沙羅は携帯を鞄にしまい込んで気が付かないのかもしれない。      沙羅が見えないなら、俺が君を見つける。何ひとつ見落とさないように、沙羅の声を俺が聞かなきゃだめなんだ。      沙羅―― 君を愛してる。  もどかしさの中を駆け出した。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!