1479人が本棚に入れています
本棚に追加
來斗が兄じゃなかったら。
そっと指先を伸ばす。頬をなぞってもやっぱり起きない。一度だけ。触れてみたい衝動が湧き上がる。指先で來斗の唇をなぞる。
「ん……」
僅かに漏れた來斗の声に、はっとした。やだ、私何をしてるの。
來斗にふれたい、でも許されない。いつか來斗の隣にも素敵な女性が並ぶ。早く家を出て行きたい。
そんな來斗は見たくないもの。
「おやすみなさい、來兄」
近くにあったブランケットを掛ける。リビングの明かりを落とす。
薄明かりの中、扉の方へ向かおうとして。
「きゃ……っ!」
入口付近に置かれた物に躓いて派手に転んだ。バタンと大きな音を立てて、旅行用のキャリーケースが床に倒れる。
「紗羅……?」
最初のコメントを投稿しよう!