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ー「ここが僕のお部屋?」 代理人により手続きを済ませてから、チャールズは薄汚れた壁の独房、B-3号室をあてがわれ、刑務官たちが見守る中で例の朱い服に着替えさせられた。死刑囚専用の独房も、うかうかしていると「満室」になってしまう。州からはほぼ毎月のように死刑執行の要請が下され、刑務官たちは持ち回りで幾度も劇薬入りのガーゼ袋を落とすレバーを下げてきた。無論ローレンスもだ。 「そうだ。君は今日からここで寝起きする」 「これからずっと?」 「…ああ」 「もう外で寝なくてもいいんだね?」 「これからはベッドで眠るんだ。…ここではひとりぼっちになる時間が長いが、そのかわり、もういじわるな友達もいないし、怒る先生もいない。君だけのおもちゃもある。絵本もだ」 そう言うとチャールズは「いいところだね」と笑った。 彼は人生のほとんどをいくつかの養護施設で暮らしていたようだが、成人間際で最後の施設から脱走を図り、それからの行方ははっきりとはわかっていない。彼がそれを自分の口では説明できないからだ。しかしどうにかたどたどしく語ったことによると、施設での暮らしは決して恵まれたものではなく、重度の知的障害であることからおそらく他の入所者にも疎まれ、いじめられはねつけられて暮らしていたのがうかがえた。施設の職員も彼には手を焼き、冷たくあたったのだろう。 「あとで君へのプレゼントを運んでくるよ」 「プレゼント?」 「たくさんの人が、君に持ってきてくれたんだ」 看守からの個人的な差し入れなどは厳禁だが、チャールズの冤罪を訴える市民たちにより、彼の独房暮らしは支えられることとなっている。死刑を待つ身であれど、ここで人並みに暮らすための金は必要なのだが、彼の場合それらはすべて団体からの寄付により賄われることとなっていた。今現在も、刑務所へと続く門の前には大勢の支援者たちがプラカードを持って押し寄せている。彼らからすればおそらくは看守の自分たちも悪人だろうが、ローレンスは彼らと同じ気持ちを抱いていた。だがローレンスだけではない。事件を知る者のほとんどは、この要塞の内外を問わず同じ気持ちを有しているに決まっている。 ー「どうだい、"坊や"の様子は」 看守室で同僚に問われ、ローレンスは「特に異状はない」と簡素に答えた。 「さっきの巡回では、電車を走らせてひとりで駅長のマネをしていたぞ」 背後から別の同僚が言い、「アレを全部運び入れたらおもちゃ屋になっちまう」と笑った。執務室には大量の差し入れ品が一時的に詰め込まれ、看守長が「明日までにどうにかしろ」と副看守長のニコルソンにイライラと言いつけているのを先ほど目にした。チャールズにはいくつかのおもちゃと絵本を与えたが、どうやらいちばん気に入ったのは、ブリキ製の電車のおもちゃであったようだ。
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