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【容疑者の知能指数は5歳児程度と判明】 ある日の朝刊の見出しだ。事件を担当する保安官がカメラの前で語ることとは、齟齬があるように思える内容であった。 【チャールズ・ネヴィル、1915年オークランド生まれ。両親はいわゆるいとこ婚をしており、知能に障害を持って生まれたネヴィルは、養護施設を転々として育ち、21歳前後で行方をくらましたあと、街をさまよいながら路上で暮らしていたと見られる】 【彼は犯行の内容はおろか、自分のフルネームも言えず、赤や青など色の名前もわからず、数字も5つまでしか数えることができない。1日中ブリキの人形を手にしてひとりあそびに興じ、質疑応答など満足にできる状態ではない】 【知能指数にすると45程度であり、これは健常な5歳児と同程度の知能であるが、ほとんど教育を受けていないと見られ、実際はそれよりも更に劣る可能性があるという】 だが彼の供述を担当している保安官は、マイクを向けられた画面の中でこう言った。 「おぼろげではありますが、彼は少しずつ当時の状況を思い出し、犯行の様子を口にするようになりました。彼の知能はどうあれ、自分のことすらもまともにわからぬ危険な男であることには違いありません。他人にどんな危害を加えても不思議ではない」 彼は狂人だ。そう言い放った瞬間に、ローレンスはテレビを消した。これ以上聞いていられない。ぶつけようのないストレスでいっぱいだった。彼は犯人じゃない、犯人はきっと別にいる。すでに立ち上がっていた市民団体に渡された嘆願書にサインをし、違う角度からの捜査を願った。 しかし保安官の「過去の栄光」は思った以上にまだしつこく効力を有していたのか、やがてメディアも彼の意見に傾いていった。
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