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事件を担当していたヤング保安官は、メディアによってカリフォルニアの英雄とされた人物であった。7年前の議員暗殺事件でマフィアの主力メンバーを一掃させたのを皮切りに、ハーマン一家惨殺事件、ローズウェル街の連続殺人を解決に導いた立役者として名を馳せている。いずれも全米が注目した事件であり、解決と同時に彼はメディアに担ぎ上げられ、国民から賛辞を受けたのだ。 だがそれから数年も経てば、彼の名声も別の大事件によって国民たちの意識の下層に沈んでいく。メディアは事件が起きればたびたびヤングに期待を寄せるが、ドラマの主人公と違い、いつだって思うとおりの活躍などできるわけではない。おまけに前回の強盗殺人事件では、若手に手柄を奪われるという失態を犯してしまった。 ヤングには焦りがあった。脚光を浴びて持て囃された過去の栄光が忘れられないが、地道な努力を重ねても成果が実ることはほとんどない。今まではそれが普通とされてきたが、トントン拍子に事件を解決に導き、自分の才能は天から授けられたものであると確信して以降、進展しない捜査に対する焦燥や絶望は病的に増していく一方であった。 そこに起きた、憐れな少女惨殺事件だ。今度こそは憎き犯人をこの手で捕まえようと、署からの連絡を受けて真夜中にベッドから飛び出してきたのだ。犯人はよほど突発的に、そして乱雑に事に及んだのか、現場には証拠となりそうなものがいくつもあり、おまけに偶然の産物だが初動にも恵まれ、スムーズに容疑者を確保できた。捕まった男は自分の名も満足に言えない、生まれついてのマヌケである。だがそれこそが、ヤングにはある種の好都合となったのだ。自分のしでかしたことがわからない精神薄弱者は、たとえ真犯人が別にあろうとも、成果を急ぐヤングにとって恰好の獲物であった。
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