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ー「お前がやったんだ!!お前が殺したと言え!!ただそれだけのことがどうしてできない?!このキチガイが!!」 立ち上がって椅子を思いきり蹴飛ばすと、チャールズは別の保安官にもらったおさがりのボロいテディベアをぎゅっと抱きしめ、目を丸くして肩をすくめて硬直した。 「ヤングさん、あまり怒鳴りつけても怯えるだけですよ」 ほかの凶悪犯とは違い、ヤング以外の署員たちはチャールズにはあまり厳しくできなかった。毎日拷問のように一方的に自白を迫られる彼の様子に、心を痛める者も出てきた。 「黙れ!これまでこういう奴らがどれだけ他人に迷惑をかけてきたと思っとるんだ!私の妻だって、この手の奴に階段から突き落とされて大怪我を負ったことがあるんだぞ!!いくら子供の知能しかないと言ったって、でかい図体で何をしでかすかわからんのだ!!」 「そうは言っても…」 顔をしかめる署員を無視し、ヤングは怯えて縮こまるチャールズの胸ぐらをつかむと、「どこのバカタレがこんなものを!」とテディベアを奪い取って壁に投げつけた。ゆるんだ糸から目玉がはずれ、音を立てて真っ二つに割れた。 「なあネヴィル、よーく聞け、何度も言ってきたことだが、バカなお前のためにもう一度教えてやる。僕が女の子を刺しました、そのあとでもうひとりの女の子も刺しました、それから、ナイフはどこかに捨ててなくしました…。それだけ、たったそれだけを認めればいいんだ。そうすればお前と俺はもう二度と会うことはない。お前も怒鳴られなくて済むし、ちゃんとしたベッドで眠れる。メシだってここよりはマシなものにありつけるんだ」 チャールズは眼前のヤングにガタガタと身体を震わせ、唇を何度もぱくぱくとさせた。 「そうだ…その調子だ。あと少しで言えそうだ。言えるよな?僕が女の子を刺しました」 「…僕が…」 「女の子を?」 「…刺しました」 「うーん、いい子だネヴィル。いや、チャーリー」 つかんだ襟元から手をはなすと、肩を押して椅子に座らせる。 「いいか、いくらお前が子供同然といえ、あの時間にあの場所にいた不審者はただひとり、お前だけなんだ。…もしかしたら、ちょっとイタズラしようとして、抵抗されたはずみで殺しちまったのかもしれない。お前には殺す気なんてなかったのかもしれない。ともかく思わぬ事態に混乱したお前は、女の子を刺すとあの真っ暗なホームにネズミのように逃げ込んで、どうするかと考えるうちに眠りにつき、そして…夢だと思い込んで、現実を忘れちまったのかもしれないな。…チャーリー、あの夜ウィンウッド家に忍び込んで、ジョアンナを殺したのはお前だな?」 顔を赤くし目に涙を溜め、チャールズは小刻みに震える。 「認めないとまた殴るぞ。あるいは窓から落としてやってもいい。こんなふうに」 ヤングがテディベアを乱暴に拾い上げると、窓を開けて勢いよく放り投げた。 「チャーリー、言うんだ」 首を絞められるような威圧に、チャールズはごくりと唾を飲むと、怯えた目でそっとヤングを見上げた。そして震える声で、ヤングの望み通りの言葉を発した。 …それからは常に見知らぬ大人たちに囲まれ、ありとあらゆる質問をされたが、すべて難しいことばかりで、まともに答えることはなかったし、何を聞かれたかも覚えていない。だがヤングの言ったことは本当で、毎日きちんとしたベッドに眠り、ときどき好きなメニューを食べることができ、おまけにあの日から彼に会うこともなくなった。偶然会っても無視をされるので、チャールズはほっとした。いろいろと話を聞きに来る人間も、施設時代のように冷たい人はいない。話し合いが終わればいっしょに人形で遊んでくれたり、時には公園で走り回ったりして、今までの人生にはなかった安寧のときを過ごした。
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