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「…どう思う、ネヴィルの件」 チャールズ・ネヴィルが裁判にかけられる間際のある土曜日。男ふたりでダイナーで夕食を食べていると、案の定ローレンスが切り出した。 「またチャーリーか。やめようぜ、飯のときくらい」 アルが肉を噛み砕きながら抗議するが、ローレンスは浮かない顔で続けた。 「どう考えてもヴィクター・ウェインのほうがクサいだろ」 チャールズが犯行を認め自供したあとで、別の強盗事件で逮捕されたウェインという配管工の男が、ウィンウッド姉妹殺傷事件の新たなる容疑者として挙げられたのだ。彼は幼少期から事件現場の隣街に住んでおり、酒に酔って店に押し入りナイフで店員を脅していたところを、巡回中の警察に見つかりその場で取り押さえられたそうだ。そして取り調べを受ける過程で、泥酔していた彼がくだんの犯行をほのめかしたのだという。沈静化していた報道熱が再び湧き上がり、メディアはまたも連日この事件を取り上げていた。 「実際、彼は4月にウィンウッド家の配管工事に行ってて、姉妹が襲われたのがそのひと月後だ。間取りも把握してるだろうし、何より女の子たちを見かけている。ウェインは妻子もガールフレンドもない孤独な男さ。おまけに屈強で力だって強い。知能だけじゃなく、運動神経もあまりないチャールズよりよっぽど…なんというか、可能性があるじゃないか」 「そんじゃあ俺らだって容疑者だ。人を刺し殺すくらいの運動能力はあって、土曜の夜に男同士でシケた店で向かい合ってんだぞ」 「でも…」 「これまでいくつもの嘆願書に署名したし、デモにも行った。俺らにゃもうできることはねえよ。お前は若造の看守、俺は小せえ会社の経理。…性懲りもなく明日のデモに参加するっつーんならついてってもいいが、アレで誰かが救われたことは俺の記憶では一度もねえ」 「君が良い歴史に目を向けていないだけさ」 「いいかアラン、歴史はどうあれ、今の司法じゃああいう奴を救ってやることはできねえんだ」 「……」 「たとえ生爪を剥がされても、"俺がやった"と言っちまったらそれで終わりだ。いくら頭はガキでも、とうに成人した男が"やった"と言ったんだ。…それを覆すことなんか不可能だ」 「言ったんじゃなくて、あくまでも言わされたんだ。あのヤングとかいう男、暗殺事件でマフィアを一斉検挙したのだって、別の組織の人間に裏金を渡して、敵対組織が議員を殺すよう仕向けたって噂があるじゃないか。いずれにせよマフィアは一網打尽なわけだから、華々しい栄光の陰に隠れているけれど、彼はどうにもキナ臭い」 「その噂がマジなら、奴は長生きできねえから安心しろ。奴に家族があるならそいつらも…下手すりゃ一族郎党な。お前んとこに、関与した何人かがブチ込まれてんだろ?最短であと何年で出られる?」 「それは言えない」 「まあ…軽めの奴なら5年以内、重めの奴でも10年せずに出てくるだろうな。どうせ外からの協力者もいるだろ。そうなるとヤングはミドルのうちにあの世行きだ。おまけにもっとも最悪な死に方の、更に上をいく殺され方でな」 「ふざけたことばっか言うな」 「実際にこの目で見てきたことを言ったまでだぜ」 「……」 「…なんてな。悪かった。冗談だ。…拗ねるなよ」 「ったく、本当に君なんかとこんな話しなけりゃよかった。最悪の味だ」 険しい顔でため息をつき、空になったコップにワインを注ぐ。するとしばらくローレンスの皿に残ったチキンをじっと見つめていたアルが、おもむろに切り出した。 「そういや、チャーリーはどうして通報を喰らったんだっけか」 「え?」 「…確か…発見されたのはサウス・メリアム駅のホームだろ」 「ああ。そこで作業員に発見されて…怪しい男が寝てるって」 「作業員か…作業員な」 「何だ?」 「でかい補修工事は4月にやってたが、とっくに終わった5月8日の深夜になんの作業をしてたんだろうな?深夜にやるとしたら線路の工事かなんかってことだろうが、それなりの規模のはずなのに作業員がひとりだとしたらおかしくねえか?そこらへんのことまで調べてんのかわかんねえけどよ、事件直後に不審者発見、ってだけで舞い上がって、見落としてることはありそうだよな」 「……」 「運良く俺は建設会社の経理を担ってる。明日調べといてやるよ、あの日になんの工事があったのか…本当にあったのかを」
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