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「ガタンゴトン、ガタンゴトン、あ、工事があるぞ!ストップストップ!」 チャールズは床に這うようにして背中を丸め、白いチョークで描いた線路の上で、お気に入りの電車をすべらせて遊んでいる。 「線路を伸ばす工事をしてるんだ、だからまだここは走れないよ!」 そう言うと右手にチョークを持ち、床にガリガリと線路の続きを描き足した。 「工事は朝になったら終わるから、朝までここに寝てよう!そうしたらまた出発だ!」 コツコツという革靴の音にも気づかず没頭する彼を、ローレンスは格子からじっと見つめていた。 あの翌日にアルが一帯の土木会社や建設会社に聞き回って調べたところ、確かに犯行時刻にあの駅で工事が行われたという記録などはなかった。そしていくつか電話をかけた先のとある会社で、5月に突然消息を絶った作業員がいるとの情報も得た。 男の名はマーク・バナマンといい、ギャンブルで財産を失っては日雇いで食いつないでいる状態であったようだが、無断欠勤が多かったのでいずれにせよクビにするつもりであったという。だが謎の作業員とバナマンを結びつけるには何の証拠もなく、彼が住んでいたというアパートの部屋は空室になっており、そこからの行方などはつかめるはずがなかった。 単なる仮定に過ぎないが、ローレンスとアルはバナマンこそがウェインの犯行のカギを握る人物だと思っていた。ウェインは親の会社で配管工をやっているが、地域の現場作業員として従事していたこともあるそうで、ふたりに面識があっても不思議ではない。そしてある日の依頼で訪れた先で、美しい姉妹に心を奪われ、歪んだ欲求を抱き、しばらくは様子を伺っていたのだろう。殺意があったのかはわからぬが、ともかく襲う機会を狙っていた。 しかしここは都市部と違い、よそ者があまり通らない閉鎖的な住宅地だ。夜間なら目撃者は無くとも、面識があるというだけでよそ者の自分に捜査の手が及ぶ可能性がある。そこで友人のバナマンと計画を立て、近くの町を放浪していたチャールズに目をつけ、犯罪をでっち上げたのではないだろうか。点と点でしかない乱暴な仮定だが、もしもチャールズが当時のことを詳細に覚え、話せさえすればそれは線となる可能性がある。
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