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首をかしげた格好で、顔だけが部屋の中を覗き込んでいる。
それはそれは奇妙な男だった。真っ白に塗られた顔。目のまわりは青、その青のまわりをくすんだ橙色で囲んでいる。唇にはもちろん深紅のルージュ。深紅の付け睫。
まるで道化師のような化粧だが、道化師というにはあまりに美しい。
「ごきげんよう」
真っ赤な口の端を吊り上げて、道化師が言った。私はただじっと見つめていた。
「ごきげんよう?」
わざとらしく、更に首をひねる。私は苛立ちを覚えた。
「おや。今宵はご機嫌麗しくなさそうだね」
部屋の中へするりと体を滑り込ませて、後ろ手にパタンとドアを閉めた。今日の衣装は中世ヨーロッパ風といったところか。やたらとレースのあしらわれた白いシャツが、丈の長い真っ赤な上着から覗いている。奇抜な化粧にはお似合いだ。
「もしかして、飽きちゃったかな。馬車のパレード」
何がパレードだ。馬車が一台、駆け抜けていくだけじゃないか。
「じゃあ今日は、特別にプレゼント」
そう言って道化師は、どこからか小さな箱を取り出して、私の目の前にぬうっと差し出した。
10センチ四方の箱はきれいに包装されていて、ご丁寧にリボンまでかけてある。一体どこから取り出したのか。こんな気持ち悪いもの、触りたくもない。
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