真夜中に馬車が通る

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 私が頭をのけぞらせると、そのぶん箱が迫ってくる。道化師の、エメラルドのような瞳が、愉快そうに私を覗き込む。 「遠慮はいらない。さあ、どうぞ」  ああ、イライラする。道化師は、私がこの箱を絶対に受け取ると確信している。こんなにも美しい僕からのプレゼントを受け取らないわけないよね、とその目が語る。  この男は知ってるのだ──私が自分の容姿に自信を持てず、内へ内へと引き込もっていることを。  誰も私なんかに興味など持たない。私には興味をひくだけの魅力など、これっぽっちもない。ソバカスだらけの肌も、小さい目も、まるい鼻も、ごわごわの髪も、ぷっくりした手足も、自分だって大嫌いだ。  だから、安っぽい言葉で、単純なプレゼントで、私が簡単に言いなりになるとでも思っているのか。  こんな私を言いなりにしようなんて、何が楽しいの。何が目的なの。“簡単に落ちた”と、仲間に自慢したいの? 落としたところで、あっさり裏切るくせに。 「……頑固だなあ」  道化師は肩を上下させて大げさにため息をつくと、その長く細い優美な指先で、自らプレゼントのリボンを解いた。  するりとリボンが床に落ち、包装紙が剥がされていく。私は不機嫌な顔のまま、次第に正体を現していく箱をじっと見ていた。  真っ白な箱の蓋が外され、中から取り出したものは──  ……ストロー?
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