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diary3
始業のチャイムが今日も鳴る。私、小原 鈴花はいつも通り完璧に授業をこなす。
「正座、これから一時限目の授業を始めます、礼」
委員長の仕事である号令をかけ、授業が開始。
一ミリの気のゆるみもなく、真剣にペンを走らせる。
こうして半日が過ぎ、昼休みも一人、屋上で昼食をとる。
隙間時間に勉強をし、少しでも無駄な時間をなくして…。
———— そう、私は完璧な女の子。
眉目秀麗、容姿端麗、マニュアルどおりの日々を淡々とこなしていく。
「小原生徒会長って、なんだか『アンドロイド』みたいだよねー」
「うんうん。なんだか近寄りがたいっていうか…」
なんて言われるのも日常茶飯事。腰まである黒髪を揺らして颯爽と歩く姿は凛としていて気のゆるみのない美しい姿。
黙々と役割を果たし、規律を守るのが私の仕事。
ただただ、淡々と。
「小原ちゃーん!」
何か声が聞こえるが、特に気にせずスルーする。
昼休みも、屋上で鍵をかけ一人でお昼を済ませる。
「ねえねえ小原ちゃーん!」
次の日の休み時間、一人で本を読んでいると物音がしたが気のせいだろう。
無視してページをめくる。
「おーはーらーちゃーん!小原ちゃんってばぁ…」
そのまた次の日の朝、週番の仕事をこなしていると、耳障りな音が何度も呼び掛けてきた。
「仕事の邪魔ですね…」
すぐさまドアをぴしゃりと閉める。
「よし、これでいい」
…こうして一週間が過ぎ、家に帰ろうと靴箱で靴を履いていると声をかけられた。
「あのさ…小原ちゃん…」
いつもの底抜けに明るい笑顔は消え失せ、深刻な顔をした翼だった。
「…なんでしょう…」
いつもとは違う雰囲気の翼に戸惑いつつも冷静を装い、声を絞り出す。
「小原ちゃん…どうしたの…?なんか最近オレのこと、避けてない…?」
図星ともいえるその言葉に、思わず目を逸らしてしまった。
「もしかして…オレのこと…き…」
「あなたには関係のないことです」
何か言いかけた翼の言葉を遮り、履きかけていた靴をきちんと履いた。
そして、立ち尽くす翼を目にも留めずさっさと校門をくぐった。
何故かいつもより足取りが重く、なかなか車に乗り込めなかった。
「お嬢様、どうかなされましたか?」
「いえ、気にせず車を出して頂戴」
ズシリとのしかかる重い塊を振り払うようにして、鈴花は首を振った。
・ ・ ・
「小原ちゃーん!」
反応なし。次がんばろ。
「ねえねえ小原ちゃーん!」
今日もダメ。なんでかなぁ…。
「おーはーらーちゃーん!小原ちゃんってばぁ…」
週番の仕事をしているであろう小原ちゃんを見つけたオレは、すぐさま声をかける。
しかし小原ちゃんはこちらを見る事もなくぴしゃりとドアを閉めてしまった。
そうこうしているうちに、あっという間に一週間が経ってしまった。
———— どうしよう…オレ、何かしちゃったかな…。
帰りのホームルームが終わり、あれやこれやと悩みながら廊下を歩いていると今まさに帰ろうとしている小原ちゃんを見つけた。
すぐには声が出ずに、わたわたその場で戸惑っていた。
このままでは、小原ちゃんは帰ってしまう。
———— 声を…かけなきゃ…。
勇気を振り絞って声を出す。
「あのさ…小原ちゃん…」
突然だったせいか、かすれた声だった。
「…なんでしょう…」
やはり、いつもと違う冷たい声。でも何故か、少し戸惑っているような…。
「小原ちゃん…どうしたの…?なんか最近オレのこと、避けてない…?」
———— 言えた…今まで一番言いたかったこと。
得体の知れない恐怖の中に生まれた、ほんの少しの安堵に胸を撫で下ろした。
小原ちゃんは気まずそうに視線を逸らす。
そんな仕草もじれったくて、つい、こんな言葉を漏らしてしまった。
「もしかして…オレのこと…き…」
「あなたには関係のないことです」
言いかけていたその言葉は、小原ちゃんの手によって遮られた。
一瞬にして、高まっていた心が重く、冷たい闇の底に消えていく。
———— 何を…言いたかったんだろうか…
自分でも理解できない感情に、痛む胸にそっと手を当てると、絶えることのない心臓の音が手の平に伝わってきた。
理解不能なその感情に身に覚えを感じつつ、とぼとぼと校門をくぐったのだった。
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