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幕間Ⅳ 『トモダチ』
小原鈴花はいつも通り、一人で昼食をとっていた。
「…どうするべきか」
今もまた、翼のことを考えていた。
「何をどうするの?」
「!?」
いきなり頭上から降ってきた声に、思わずむせる。
「わわっ…どうしたの!?ほら、水。飲む?」
「は、早見さん!?」
———— おどろいた…一瞬あの人かと…。
そんな考えを吹き飛ばすと、慌てて表情を戻した。
「だ、大丈夫よ。お気遣いなく」
「そっか、ならいいや」
そう言って早見はすとんと隣に腰かけた。
「どうしてこんなことろに来たの?」
気になっていたことを尋ねると、早見は不思議そうな顔でこちらを見た。
「えっ…だって、いっつも生徒会長一人でご飯食べてるからさっ」
「…なぜそれを…?」
訝しげに眉を顰めると、少し焦ったように早口で答える早見。
「いや、その、いつも聖川君がここに入って行くのを見ちゃってさ。最近は一緒じゃないのかな~って思って」
「そう…」
浮かんでくるのは、翼の笑顔。あたたかくて、優しくて、凍り付いた心を解かしてくれるような…。
「会長?」
「あっ…ごめんなさい」
「どうしたの?ぼーっとしてぇ」
早見はくすくすと笑うと、手にしたミネラルウォーターをグイッと飲んだ。
自分も急がなくてはと止まっていた箸を進める。
微妙な沈黙が流れ、ふと、早見が先ほどから水しか飲んでいない事に気が付いた。
「早見さん…それだけで足りるの?」
「ん?あはは、お昼、早弁しちゃって…」
早見はポリポリと恥ずかしそうに鼻の頭を掻いた。
…ぐるるるるっ。
大きな腹の音が聞こえてきた。
見ると顔を赤らめた早見がちらりとこちらを見ているではないか。
先ほどから感じていた視線はこれか。
分かりやすく動揺する早見の前に、おずおずと弁当箱を差し出した。
「もし良かったら…これ」
「えっ!いいの!?やりぃ!」
途端に元気を取り戻すその姿に、いつかの光景が思い浮かんでしまう。
むぐむぐと頬ばるその姿も、なんだかもどかしくて…。
「んおっ!おいひい!前から会長の弁当美味しそうだと思ってたんだよねぇ!」
「そう…良かった」
どうせ多すぎて残してしまう分なのだ。これくらいは許容範囲の内。
毎日シェフが朝早くから仕込んでくれているこの弁当を残すのは、いつも気が引けていたため、逆に助かる。
「ふぅ…おいしかったぁ…」
満足げに腹をさする早見は、にこりと笑うと手を取った。
「ありがとう!会長!いや、鈴花!助かったよぉ!」
「!!」
「ねえ、これからは鈴花って呼んでもいい?もし良かったら友達になんない?」
「え…と…」
———— 友達。
今まで本の中でしか聞いたことのない言葉。耳慣れないその言葉に、胸の奥がくすぐったくなった。
「いや…?」
「えっ…そんなことは…な、いけれど…」
「よしっ!じゃあこれからよろしくね!」
なかば強引な「友達」認証だったが、何故か嫌な気がしなかった。
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