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「新井くん、君の能力なら男性に負けない業務が可能だ。
確かに、第一期の女性総合職という立場は魅力的だ。君なら間違いなく理想的なロールモデルになるだろう。
だがね、もったいないとは思わないかな。
言うと悪いが、国内だけの、それも事務用品を取り次ぐだけの会社。今まで学んだことの半分も活かせないだろう」
ここで、教授は花野に言い聞かせるように話してきた。
「私の教え子の中でも、君は飛び抜けて優秀な学生の一人だ。可能なら、霧山商事でも大丈夫と断言できる」
霧山商事-財閥系になる日本最大手の総合商社だ。
もちろん、花野も可能ならエントリーしたかった。でも、二つの条件をクリアできないので最初から諦めていた。
エントリーには霧山グループや一族に繋がる者の推薦が必要なのだ。そして、ある程度のランクの実家を持つこと。
どちらも花野には届かないものだ。努力だけではどうしようもないことがあると、花野に痛感させた会社だ。
教授の言葉は、花野を高評価してくれているわけだから喜ぶべきだが、届かなかった会社のことを言われても嬉しくないのは事実。
そんな花野の複雑な心境を知るわけもない教授は、言葉を続けている。
「とにかく慌てて決めないで、もう少し考えてみなさい」
「はい……」
教授は穏やかな口調だったが、反対の意志をはっきりと示した。そして、花野は教授を納得させることができなかった。気落ちした表情で彼女は教授の部屋を出た。
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