第一章 巡り会いの不思議

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 ***  無事に大学を卒業して、花野は中村事務総合商事に勤め始めた。  女性幹部候補は花野を含めて三人。第一期ということで、大学でも特に優秀な女性を選んだようだった。  彼女たちはライバルだ。でも、共通の目標に進む同志でもある。  微妙な関係だが、男性社会に切り込むという目的は一緒。割合良好な始まりだった。  問題だったのは、一般職で入った女性社員だ。  エリートと認識される花野たちへ、あからさまな嫉妬の視線を向ける者もいる。研修中、会社から出ると、三人は同じ愚痴を言い合っていた。  「ああいうのが、女性の地位向上を阻害してるって、どうして自覚できないのかしら」  法学部を出ている白井(しらい)和香(わか)が、辛辣(しんらつ)に同期の女性たちを批判した。  彼女は弁護士を目指していたが、在学中の司法試験に不合格。弁護士事務所への就職も上手くいかなかったと聞いた。  理屈が先で、冷たく見えるのが不利に働いたらしい。  エントリーを送ったのは偶然だったようだ。  ゼミの同級生に(すす)められて訪れた就職セミナーで、花野と同じように、女性総合職第一期という部分に興味を引かれて、軽い気持ちでエントリーしたと言った。  どうして内定になったのか、本人が一番驚いているらしい。でも、向上心は花野たち以上で相当強い。それも男性たちに敬遠されるのだろう。
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