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「どうしたの、花野。教授に怒られたとか」
花野と同じゼミに所属する、友人の皆藤麻里が、冗談だと分かる口調で話しかけてきた。
「怒られてないけど、ちょっとね」
「……どうしたの。何かあったの?」
麻里には、中村事務総合商事に入社したいとは話していない。先に教授に報告しなければ駄目だと思っていた。
でも、教授の反対に花野は迷った。友人のアドバイスが欲しくなるほどに。
「相談乗ってくれる?教授に反対されたの、内定企業の件で。すごく迷ってる」
意外な言葉だったようで、麻里は驚きを顔に浮かべた。
「いいけど、珍しいね。花野が相談してくるなんて」
「そう?」
少し心外だった。麻里にはかなりいろいろ話しているつもりだ。花野の歴代の恋人も教えている。
「うん。ほんとにおっきなことって、自分で決めるじゃない。相談された記憶ない」
確かに彼女の言うとおりかもしれない。重要なことは自分で決断していた。
誰かに相談した結果、思うような状況にならなかったら責任転嫁をしてしまいそうで、そんな嫌な行動は取りたくないと避けていたらしい。
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