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「残念ながら、特一色認知症(とくいっしきにんちしょう)で間違いないかと……」 つい三日前、お医者様は難しい顔で翔太にそう告げた。 「色が……ない」 朝目覚めてしばらくベッドの上で呆然とした様子だった彼が発した言葉に、私は全身から血の気が引いたのをつい先程の事のように覚えている。 身支度を整えて車に飛び乗るまでの時間は、今まで生きてきて無いくらいの早さだったんじゃないだろうか。 助手席に座る翔太より、私の方が大きく動揺していた。 ハンドルを握る手は強張っていて、アクセルを踏む足の感覚も覚束ない。そんな状態での運転は、いつもより荒くなっていた。それを察した彼は自分が一番不安なはずなのに、運転中ずっとなんて事はない世間話をして私を宥めようとする。 だけど、彼のそんな気遣いを受け取る余裕さえあの時の私には無かった。 不安で胸がいっぱいで、赤信号で停止する時間が途方もなく感じたのを覚えている。 『特一色認知症(とくいっしきにんちしょう)』 それは近年になって、二十代から三十代の若い世代にみられる病気として有名になり始めた。 その原因も、治療法も分かっていない不治の病。ある日突然発病し、ある特定の一色以外の色を認識できなくなる病気で、認識できる一色は人それぞれ違うらしい。 この病気には、恐ろしい特徴がある。 それは、 発病したら、一ヶ月後に衰弱死してしまうということ。
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