1

2/9
前へ
/30ページ
次へ
明里は昼間はごく普通の銀行員だ。 新卒で入行して6年目になる。 ひととおりの業務をまわって、今は地区の母店の窓口を担当している。 「高梨(たかなし)さん、お願いします」 出納係から再勘(さいかん)を経て戻ってきた現金と通帳を受けとるために振り向き、ついあくびが出そうになって涙目になる。 「…鼻が赤いですよ」 この春入行した行員の男の子にちらりと横目で見られ、指摘された。 仕事中に、言語道断だ。 新入行員に注意されたことも恥ずかしくて、少し動揺しながら現金を再確認し、お客様をお呼びする。 (普段はこんなことないのに…昨日、やっぱり夜更かししすぎたかな) お客様に笑顔で対応したあと、気合いを入れ直すために深呼吸をして、次の業務に取り掛かった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加