23人が本棚に入れています
本棚に追加
翌朝、陽平は玲音に揺り起こされた。
「ごめん、陽平、起きて」
なぜか妙に深刻な顔をしている。
「ん……何……?」
「上司が来たいって言いだした、ランチに」
起き抜けの陽平の頭では、処理が間に合わない。
「上司……? 何……?」
昨夜家に電話したら、池田家はみんな大喜びで、昼ご飯を一緒に食べることになった。店休日だけれど父がパンを焼くと張り切っているそうだ。
「ごめん……うれしくて俺、うっかり上司に自慢ラインしちゃったんだ……」
ようやく覚醒してきて、なんとなく事態が呑み込めてきた。
「まあ、いいんじゃね? どうせ食事は作りすぎてるだろうし……別に嫌な人じゃないんだろ?」
自慢ラインを送るくらいなんだから、わりと仲のいい上司なんだろうと思うのだが、玲音は割り切れない顔をしている。
「うん……嫌な人ではないんだけど……」
「じゃあ俺もうちょっと寝る」
あと三十分寝たかった気持ちを優先する陽平の隣で、玲音はなにやらまだ頭を抱えていた。
「彼女さん!?」
玲音が一人で駅まで迎えにいって連れてきたその人を見た瞬間、母が大きな声を上げた。
「上司です」
「やだあ、彼女に見えますう?」
そう言って笑う女性を前に、陽平は唖然としてしまう。たしかに上司とだけ聞いていて、性別や年齢は聞いていなかったけれど、これは……
「もー、ふざけるのやめてくださいよ。俺の母親くらいのねっ……」
そこまで言ったところで、ベージュのパンプスで足を踏まれ、飛び上がる玲音。途中まで聞こえた言葉に声を失う池田家の面々に、彼女は微笑みを返す。さらっとしたデニムシャツと九分丈の白のパンツに、長い髪を一つにまとめて肩から前に垂らしているその風貌は、玲音や陽平と同年代くらいにしか見えない。
「母親までは全然いかないですよ、十五か六か七くらい上ってだけで……」
「えーっ!?」
そこで初めて池田家の人々は、声を出して驚いたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!