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「この森ね、木の実が沢山生えててね。私たちから見たらご馳走の山よ。なんせ、町外れだから怖がって誰も近づかないの。」
レーネは着替えたあと、俺を近くの森に連れてきた。
ほーん。
緑の木々の間から陽の光が零れて
「綺麗だな。」
思わず口にする。
「ほんとよねぇ。穢れた私を受け入れてくれるこの森は、私たちを動かしてくれる。悲しいわ。私たちは神のおもちゃでしかないのにね。神の作ったものに依存しなくちゃ生きれないだなんて。」
「皮肉だな。」
「そうでしょ、うふふ。」
少し歩いたところで俺の足首程の浅さの川を見つける。川幅は広い。
浅い小川に足をつけながら、レーネは踊るようにクルクルと回る。
それを俺は木陰から見ていた。
なんというか、穢れなんて見えない。
むしろ昔どこかで聞いた歌物語の妖精のように、リリカルに踊る。
妖精アクアは水面で踊る。
死神さんとフラフラ踊る。
お手手を繋いで腐っても
離すことなく踊りつつ。
「今日は暑いから水に浸かると涼しいわ。リウもいかが?」
着替えがねぇんだよとつっこむ。
「あら、たしか前に街で買った布があったわ。簡単なものなら作れるわよ。奴隷は労働もさせられたからね。」
少し悲しげに俯く。
そしてその刹那、レーネの手が伸びる。
そして、俺を川にひっぱる。
ぱしゃ!!
靴脱いでて正解だった。
しかし、スキニーの裾がすぶ濡れだ。
「ちょおい!なにすんだ!」
「お水は苦手?私は好きよ。踊りましょ?」
そしてまた俺の手を引いて踊り始める。
まるで、本物の妖精。
光に照らされて、暖かな森で。
水と踊る妖精少女。
闇の中で血塗れの俺とは、違う。
この子は、違う。
俺は手を引かれるまま踊る。
こんな気持ち、初めてだ。
こんな穏やかな時間は、500年の中になかった。
「人の手、、、」
「人は暖かいわよ。ぬくもりは寂しさを紛らわせるの。」
俺が触れたのは、冷たくなったあとの人間だけだった。
触ろうとすれば拒まれるのが当たり前だった。
気持ち悪いと振り払われ続け、両親にすら捨てられたこの手。
レーネは、俺の手をしっかり掴んで離さない。
ああ、幸せなのか。
これが、、、
目も、全て違う。
恐れられる目で見られるのとは違う。
俺の目は汚いけど。
俺は、なんでこの綺麗な目を知らなかったんだろう。
妖精アクアは死んじゃった。
死神さんに触っちゃった。
けども泣かない怒らない。
綺麗なお目目で彼を見る。
涙を流す死神さん
彼はほんとに死神さんなの?
「あっ、、、」
レーネはつまづく。
俺は咄嗟に腕を伸ばす。
背中から支える。
俺は愚かにも、ヒロインを助けるヒーローの気持ちになってしまったらしい。
あるいは、お姫様をエスコートする王子様か?
「ありがとう、リウ。お陰で転ばずに済んだわ。」
「あ、ああ。」
レーネはにこりと微笑む。
やっぱり、綺麗な目。
血のように赤くて、それでいて美しい。
俺には、彼女の隣にいる価値があるのか?
木の実をいくつかもいで、俺たちは教会へ帰った。
木々は俺を笑うようにザワザワと風に吹かれていた。
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