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俺は戸惑って、彼女の手からビニール傘を受け取っていいのか不安になった。
「あ、あの…?」
「あ、ごめんなさい」
彼女は指で涙を拭いながら小さく笑い、聞こえるか聞こえないかくらいの声で「嬉しくて」と言った。
「…へ?」
聞き間違いか?
そう思いながら聞き返すと、彼女は初対面にも関わらず、俺にこう言った。
「おかえりなさい」
おかえり…って、どういう時に使う言葉だっけ?
困惑した俺は、そんなことを必死に考える。
どう考えたって、初対面の相手には使わない言葉だった。
使うとしたら――メイドカフェくらいなんじゃないか。
「あ、ごめんなさい。つい」
彼女は早口で言って、それから回れ右をする。
そして、駅の乗り場の方へ歩いていく。
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