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そうして暇を持て余す僕は、後ろの二人組がもし夫婦ではなく不倫関係だったらさぞ面白いと下世話なことを考えた。ともすると本当は片方だけが寝てしまい、もう片方は起きているのかもしれない。横の寝顔が目を覚ます頃に飛行機は丁度東京へと到着し、世界と己が地続きになった途端、現実へと引き戻される。一抹の罪悪感に胸を痛めながらもそれを切ない恋心と錯覚してしまうのだろうか。自分の側から彼らの顔が見えないことが、身勝手な妄想を膨らませるには却って好都合だった。
機体が一瞬だけ揺れる。僕はハンドバッグの持ち手を条件反射で固く握ったがすぐに離した。間髪入れずアナウンスが入ると、どのくらいの人が果たしてそれに耳をちゃんと傾けているのか怪しく思った。以前、飛行機の墜落事故に遭う確率は車の交通事故で亡くなる確率よりも低いという話を聞いたことがあった。しかし、宝くじで一等を当てる確率よりは高いらしい。想像もつかない数字だが、だからきっと何れにせよ劇的な人生だ。でも、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだが、古今東西あらゆる情報がクリック一つで家に居ながら知ることの出来る現代においては、劇的な人生というものは些か陳腐に成り果て過ぎてしまったような嫌いがある。テクノロジーは来るところまで来たということか。当たり前だが江戸時代には飛行機など無かった。車もまた当然無い。彼らは何日も費やして目的地まで踏破するしかなかった。しかしそれによってしか得られない発見もまた、確かに存在したことだろう。
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