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窓の方に顔を向けるとそのときどこかのまちの夜景が拝めた。僕は窓際の席に座っていた。僕の元に訪れる幸運なんてせいぜいそのくらいのものだ。きらきらと点在するそれらの灯りはまるで地上から見る星々のようだった。人々の営みのネットワークは星座となって、飛行機はこの瞬間宇宙空間を漂う宇宙船と化す。死ぬまでに宇宙人に逢ってみたいと、漠然と考えてみる。しかし、実際は外国人にすら話しかけられると困ってしまう男だ。外国人も宇宙人も英語にするとエイリアンだから、僕は実際に宇宙人と対面しても案外「困ってしまう」くらいで済んでしまうのかもしれないけれども、でも、やはり夢というのはきっと星空のように安全地帯から眺めるくらいが綺麗で丁度いいのだと思う。
僕の元に、知らない内に二十歳は訪れて来ていた。それを実感してみたくて、生まれて初めて煙草を買ってみた。アメリカンスピリットとかいうやつを。空港の喫煙所に入り、スーツ姿に囲まれながら一本吸ってみた。案の定咽せた。やはり大人になったという実感は湧いてこなかった。でも、実感なるものは下手したら何十年もあとになってから漸く伴うものなのかもしれないと、一方ではそんな予感がある。よく中年のオッさんが「昔は若かった」と管を巻いているように。
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